第46話 自虐ネタはギャルを救う
潤さんのハニートラップから解放され、ギャルこと心亜を探していると。
「ねえ、少しお話するだけだからさ」
「そうそう、そんなに怯えないで」
「いや、普通にそういうの無理っていうか~」
心亜が二人組の大学生に絡まれていた。
いわゆるナンパというやつだ。
これは俺の責任だな……
こうならないように各グループに男子が一人はいるようにしたことを考えると、俺の不注意が招いたと言っても過言ではない。
さて、どうしたものか……って、ん?
とりあえずナンパ師の二人を見ると、俺はあることに気づく。
二人とも明るい髪色で一見垢抜けているように見えるが、体つきはそれほど大したことはないし、顔も普通。
これは、もしかしなくてもアレだな。
俺は一つの確信を得ると、念のためラッシュガードを脱いでから心亜の下へと向かう。
「あの……」
「――っ、覚士っち」
三人の中に割って入ると、すぐに心亜が俺の背中に隠れるように移動する。
「ちょっと、何かな君」
「俺たち、今その子と話してるんだけど」
ここで彼氏なのかと、そっち方面の勘違いをしてくれれば楽だったのだが、やはり相手が俺ということもあって、そうはならない。
くそっ、やはりやるしかないのか。
覚悟を決め、俺は相対する二人の目を真っ直ぐ見てから答える。
「お、俺の彼女に何か用ですか?」
「「はっ――?」」
「えっ、覚士っち?」
俺の発した言葉に、その場にいる三人が疑問符を浮かべる。
「その、嘘はよくないと思うな」
「そうそう、いくら何でも君なんかが……」
僅かな沈黙の後、二人からの当然のように否定の言葉が出てくる。
しかし、俺は虚勢を張るように一歩踏み出す。
「そ、そんなの俺が努力したからに決まってるじゃないですか!」
「「――っ」」
二人が僅かに怯む。俺はその隙を逃さないと、必死そうに続ける。
「ほら、俺こんなじゃないですか……だから、必死に勉強して、身体鍛えてやっと彼女が出来たんです!」
中途半端に鍛えられた、だけど目の前の二人よりも発達した筋肉を強調。
そして、選挙での経験を活かして相手の情に訴えかけるように俺は告げる。
「お二人なら、俺の努力、わかってもらえますよね……っ!」
「「うっ(くっ)」」
目の前の二人はうろたえ一歩後ろに下がり、互いに顔を見合わせる。
その表情は、まさしく同情であり共感。
やはり、俺の見立て通りだ。
髪を染めて髪型を変えてみたり、ちょっと筋トレして見たり、そして今回のように声をかけてみたりと。
彼らはそんなモテる努力を始めたばかりの人だ。
「なあ……」
「おう……」
二人は目の前でちょっとした意思疎通を行うと、俺たちに背中を向ける。そして――
「し、しょうがないから。今回はそういうことにしておいてやる」
「別に羨ましくなんてないからな!」
最後にそんな小物じみたセリフを残して、人混みへと消えていく。
これでひとまず一件落着だな……って。
事が終わり、改めてギャルの様子を見ようとしたところで気づく。
この状況、普通にマズいのでは……
「そ、その……」
怯えながら振り返ると、案の定というべきか、心亜は呆然と俺のほうを見て固まっている。
いくらナンパから助けるためとはいえ、さすがに俺なんかと真の陽キャたる心亜様を恋人関係にしたのは良くなかった。
少なからず彼女を不快にさせてしまったかもしれない。
「ねえ、覚士っち」
「な、何でしょうか……?」
謝ろうとしたところで、先手を打たれる。そして――
「とりあえず、助けてくれてありがとう」
普通にお礼を言われた。
「――? ど、どういたしまして?」
「どうして疑問形?」
「いや、まあその」
「別に彼女の云々とか気にしてないよ?」
「――っ、そ、そうですか……」
よかった。どうやら俺の杞憂だったらしい。
心の中でほっとひと息つくと、心亜はなぜか少しだけ真顔になって続ける。
「てか、私が覚士っち相手にそんなこと思うと思ったんだ?」
「いや、それはその心亜は普通に住む世界が違うというか、何というか……」
「はっ、何それウケる」
いや、全くウケないんですけど……っ!
知らない間に、何か俺は彼女云々とは別に怒らせるようなことをしてしまったらしい。
「ねえ、覚士っち」
「は、はい……」
「私たち、本当に付き合っちゃおうか?」
「――えっ……?」
少し怒らせてしまったかと思ったら、今度は何だ!?
本当に付き合う? 俺と心亜が?
「はは、冗談。真に受けてるのウケる~」
「――っ、お、お前な!」
「でも、今のでわかったでしょ~?」
「な、何を――」
「私と覚士っちの距離感」
「――っ」
なるほど、そういうことか。
どうやら、俺が心亜との友人としての距離感を把握していなかったことが、怒らせた原因だったらしい。
「悪かったな、変に気を遣って」
「わかればよろしい~。あと、それじゃ改めて」
心亜は普段と変わらない掴みどころのない緩い笑みを浮かべながら。
「覚士っち。さっきはありがとう~!」
そう言って俺の横に並ぶ。そして――
「それにしても、さっきの二人。覚士っちのおかげで助かったよね~」
「ん、どういうことだ?」
「いや、だって私まだ高校生だし」
「――」
大学生は高校生には手を出せない。
それを説明すれば、あの二人なら普通に引いてくれただろう。
つまり、俺の自虐ネタは本来なら必要ないものだったというわけだ。
「はは」
俺は削る必要のなかったわが身を思いながら、乾いた笑みをこぼすのだった。
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