第44話 美少女たちの守備力はすばらしい


 8月に入り、初めて迎えた週末。

 今日は早坂兄妹と約束した海へ行く日なのだが……


「なあ滝さん」

「何ですか、先輩」

「俺は君の保護者なのか?」

「はっ、何言ってるんですか先輩?」


 じゃあ、この状況をどう説明しろというんですかね?


 俺は今、滝さんと二人で待ち合わせ場所となる駅へと向かっている。

 昨日の夜、急に連絡が来てそうするよう言われた。

 何でも一人で輪の中に入るのが緊張するからなんだと。

 まあ、今回の海水浴には凪咲や潤さん、そして郡山さんも参加するので輪に入りずらいという気持ちはわかる。

 とはいえだ。


「どうして早坂兄妹じゃなくて俺なんだよ。家だってあいつらの方が近いだろ」

「――っ、勇生斗さんと長時間一緒なんて私にはまだ早いです!」

「お、おお……」


 中学の頃は男慣れしているという印象だったが、どうやらそれは間違いだったらしい。


「それに、協力してくれるって言ったじゃないですか……」

「――そうだな。悪かった」


 中学時代の俺の奇行のせいで、少なからず滝さんにも不快な思いをさせてしまった。

 だから、彼女の本気の恋を応援するのはその罪滅ぼし。

 協力すると言った以上、文句を言うべきではなかった。


「わかればいいんですよ」


 最後にボソッと滝さんがそう呟いてから、静かに10分ほど歩を進めると、駅前に早坂兄妹たちが集まっているのが見えてくる。


「見た感じ、俺たちが最後みたいだな……って、滝さん?」

「先輩、何ですかあれ?」


 そう言って恐るおそる滝さんが指を指した先には、凪咲と潤さんがイケメンと仲良く話している光景が広がっている。

 ちなみにその隣では、ギャルが郡山さんにスマホの画面を見せて、こちらも楽しそうに談笑中だ。


「何ですかと言われてもな……」

「一緒に来る人があんな美人だなんて聞いてません!」

「別に滝さんだって負けてはいないと――」

「それ、本気で言ってます?」


 おいおい、何で急にそんなに怖くなるんだよ!


 と、一瞬だけそう思うが、滝さんが自信なさげに自分の胸に手を当てているところを見て、すぐに考えを改める。


 顔立ちという点では決して滝さんは負けていない。

 だが、スタイルの良さという点ではあの二人には劣ってしまう。


「まあ、その……頑張れ」

「先輩、ちゃんと責任取ってくださいね?」


 一体何の責任を取らされるというのだろうか。


 考えたくなかったので、俺は何も聞かなかったことにして、そのまま二人でみんなの所へ合流するのだった。


         ※※※


 駅から電車に揺られること一時間と少し。

 俺たちは目的地である海水浴場へと到着した。そして――


「イケメンよ、何としてもこの任務、成功させよう」

「ああ、覚士。女の子たちの笑顔のために」


 クーラーボックスとレジャーシートを持った俺とイケメンは、シーズン中で賑わう白浜を見ながら目標を共有する。


 脱衣所が混まない、かつ着替えに時間がかからない俺たち男衆は、場所取りという重要な任務を預かった。

 これを成功させずして、女子たちの笑顔はない。


 俺たちは全力で良さげな場所を探し始める。その中で――


「あの……」

「よかったら私たちと一緒に……」

「すみません。他にも連れがいるので」


 こんな感じに、同じ年代の女子から明らかに女子大生っぽい方からお誘い(俺は完全無視)まで、イケメンのすごさをまじまじと見せつけられる。そして――


「この辺でいいだろ」

「だ、だな……」


 心に多くの傷を負った俺と、若干しんどそうにしているイケメンは、いい感じの場所を取ることに成功する。


 イケメンの様子を見るに、これは滝さんは露骨なアピールはしない方が良さそうだ。


 あとでそのことを伝えておこうと思いながら、レジャーシートを広げたりと色々なことやっていると、突然周囲が騒がしくなる。


 反射的に俺たちはその方を見ると。


「な、何だあれ……?」


 視線を向けた先に、ラッシュガード軍団がいた。

 正確に言うと、素足は晒した状態で、上半身をラッシュガードで完全に隠した女子高生5人組が徒党組んで俺たちの方へ向かっていた。

 女子高生5人組とは、いうまでもなく凪咲たち。

 こういうのは、水着姿に騒ぎ立てるものだと思うのだが、彼女たちの場合上半身を隠していても人目を引いてしまうらしい。


「二人とも、ありがとう~」


 女子たちを代表して、緑色のラッシュガードを着たギャルがそう言って俺たちの下へ合流する。


 うん、周囲から俺へ向けられる嫉妬の視線がヤバい。


「どうしたの、覚士?」

「顔色が悪いですわよ?」


 黄色と紫のラッシュガード姿の凪咲と潤さんが心配そうに迫ってくる。おかげでまた俺にヘイトが集まっていく。


「お、俺は大丈夫だから……」

「本当に大丈夫ですの?」


 おっ、おいお嬢さま……!

 上に着てるとはいえ、そんなに密着しようとするんじゃない……!


 助けてくれとイケメンに視線を送ると、流石は俺の相棒。


「ほら二人とも、早くこれからどうするか決めないと」

「そ、そうだな!」

「あっ……」


 潤さんから離れるように、イケメンの作ってくれた口実に乗っかる。

 イケメンの言うように、あまり悠長にしていると人が増えすぎて、まともに遊べなくなるからな。


「さて、まあまずは何をするかだが……」

「覚士っち、そんなの一つしかないと思うよ~」


 ギャルはそう言いながら、ラッシュガードの前を開け、フリルが印象的な白いビキニを見せてから続けた。


「まずは水着のお披露目。二人とも感想よろ~」


 周囲からの視線がさらに強くなったのは言うまでもない。


 さて、今日の俺のメンタルはどこまで持つのやら。


 俺たちの海水浴は始まったばかりだ。


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