第43話 滝梓
中二の9月。
父親の転勤によって、私、滝梓の人生に初めて転校というイベントが訪れた。
それも地方の学校から都会の学校への転校。
正直、不安が全くなかったわけではないけど、それでも自信はあった。
地元では常にクラスの中心だったし、中学に上がってからは10回は軽く男子から告白だってされたから。
案の定、転校初日で私はすぐにクラスの中心にいる子たちと仲良くなった。
そして数日後、早速男子から告白の呼び出しを受けた。
転校してから初めて受ける告白。
都会は男子のレベルも高いと言うし、一体どんなイケメンからなのか。
ドキドキしながら、私は友人の一人にこのことを伝えた。だけど――
「真竹覚士って……」
「あの、振られたがり屋の先輩だよね……」
友人たちの芳しくない反応に不安を覚えた私は、すぐに真竹先輩について教えてもらった。
一言で言うと、可愛い子にひたすら告白し振られ続ける変態。
普通にドン引きする内容だったし、呼び出しをすっぽかそうと考えた。
ただ、真竹先輩の噂に続いた友人たちの言葉によって、私は考えを変えた。
「まあ、一応名誉なことだから……」
「そうそう。あの先輩、皆が認める可愛い子じゃないと告白相手に選ばないし」
「だからまあ、元気出して……」
本人たちからすれば、唯のフォローのつもりだったのだろう。
だけどそれは、私にとって一種の自信となった。
ちゃんと私は都会で通用する女の子なのだという自信に。
そういう意味で、私は見る目だけは肥えているのであろう真竹先輩に感謝した。
だから一応、呼び出しにだけは応じることにした。
そして、私は告白してきた真竹先輩に、感謝へのお返しという名の忠告をした。
「先輩、もう少し分をわきまえたらどうですか? どう考えたって、先輩みたいな凡人が私レベルの女子と付き合えるわけないじゃないですか」
ところが、先輩の反応は芳しくないもので。
「何ですか、それ。もういいです。忠告しようなんて考えた私が馬鹿でした」
私はそのまま告白の答えとしてNoを突き付けて、先輩の前から姿を消した。
これが、今に至るまでの間に私と真竹先輩にあったこと。
だけど、大変だったのは真竹先輩からの告白を断った後からだった。
※※※
真竹先輩の告白を皮切りに、私は沢山の男子から告白を受けることになった。
中には結構かっこいい人もいて、本当に付き合おうかと考えたこともあった。
だけど、どんなにイケメンであっても最後は必ず告白を断った。
告白してきた相手にトキメキというか、運命のような何かを感じなかったから。
一体どうすれば、他の子のように浮足立つような感情を抱けるのか。
いつしか、私は真剣にそんなことを考えるようになっていた。
そして、私はその答えを唐突に知ることになった。
あれは転校してから3か月が過ぎた頃。
帰宅時。
他の友達と別れ一人で歩いていたところで、私は誰かにつけられていることに気がついた。
相手に気づかれないよう後ろの様子を見ると、後ろから来ていたのは以前告白を断った他校の男子生徒。
過去にも似たようなことはあったが、ここまであからさまにストーキングされたことはなかった。
気持ちが悪い。
私は歩く速度を上げた。
当然、それに合わせて相手の速度も上がる。
相手の歩くスピードは私より速く、徐々に距離がつまっていき。
ついには腕を掴まれそうになってしまう。
怖い……っ!
相手に対する感情が嫌悪感から恐怖へと変わり、私は反射的にその場から駆け出した。
少し遅れて、相手も走り出す。
このままでは、確実に追いつかれる。そうなったら……
危機的な状況を打破するために私は必死に周囲を観察し、近くのマンションのエントランスに監視カメラが設置されていることに気づいた。
これしかない……っ!
私は咄嗟にマンションのエントランスに駆け込んだ。そして――
「おっと」
「――っ!?」
私は勇生斗さんと運命の出会いを果たした。
逃げるのに必死で前を見ていなかった私とぶつかった彼は、私の表情とすぐ後ろに控える男を見て、私を思い切り抱き寄せて言った。
「俺の彼女に何か用?」
当然、私と彼はそんな関係ではない。
彼は今の状況を的確に判断し、怒気を含んだ声でストーカーに圧をかけたのだ。
ストーカーの男子生徒は、彼の行動に一歩後退るとそのまま逃げかえって行った。
「大丈夫?」
完全にエントランスからストーカーの姿が見えなくなると、彼は澄んだ瞳を真っ直ぐ私に向けながら私を案じる。
その瞬間、私は今まで感じたことのない胸の高まりを感じた。
ああ、これが私の求めていたトキメキだ。
ここに来て、ようやく私はここ最近抱いていた疑問の答えを知った。
私は自分から好きになった相手にしかトキメかない。
だから、告白してきた相手に熱が上がらないのはある意味当然だったのだ。
それから、私は今に至るまでずっと勇生斗さんに恋をしている。
だけど思いはまったく届いていない。完全に片思い状態。
親の方針で高校は勇生斗さんとは別の所になったし、休日は彼の部活があってほとんど会えない。
だから少しでも距離を詰めたくて、勇生斗さんが時々通うこの喫茶店でのアルバイトを決意した。なのに……
「真竹先輩」
「何だ?」
「本当に勇生斗さんと友達なんですか?」
書き入れ時が終わりお客さんがいなくなった店内で、食器を洗っている真竹先輩にカウンター越しに尋ねる。
「友達ではないな。あれはもう親友の域だ」
「――っ!?」
まったく悪びれていないところが、余計にそれが真実だと伝えている。
許せない。出会ったのは私のほうが先なのに……
「なあ滝さん」
「先輩の方から話しかけないでください」
「勇生斗のこと、本当に好きなのか?」
「ちょっと、人の話聞いてましたか?」
「いいから。どうなんだ?」
一体、それを聞いてどうするというのだろうか……まさか……っ!?
「先輩、まだ私のこと……っ!?」
「おいおい、すごい勘違いだな」
「じゃあ、何ですか?」
「単に協力してやろうかって、言おうとしただけだ」
「はっ、協力? 先輩に何ができるんですか?」
「そうだな……」
少しだけ考える素振りを見せてから、真竹先輩はしてやったりといった軽い笑みを浮かべながら言った。
「今度、勇生斗たちと海に行くんだが、一緒にどうだ?」
「行きます……っ!」
真竹先輩からの提案に私は即答するのだった。
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