第42話 15番目に俺を振った美少女
今まで沢山の美少女に告白してきた俺だが、その中で最も節操のなかった告白といえるのが、滝梓に対するものだと思う。
あれは確か、中三の9月。
ちょうど中学最後の夏休みが終わり、二学期が新たに始まってすぐの頃。
一学年下に可愛い女子が転校してきたという噂が流れてきた。
当然、当時の俺がその噂を無視することなどあり得ないわけで、早速二年生の教室があるフロアに向かった俺は見た。
癖のない長い赤みがかったセミロングの黒髪に、綺麗に切りそろえられた前髪。
顔立ちは大きな二重まぶたが印象的な幼さを含んだもので、身体つきこそ細いものの後輩とは思えないほど手足はスラっとしている。
これまた美少女と言っても過言ではない転校生が、性別関係なく沢山の生徒に囲まれていた。
そんな光景を見た瞬間、俺は即決断した――すぐに彼女に告白しようと。
相手は人気の転校生。恐らく、この先彼女が一人になるような状況はあまり考えられない。
一方で、当時中三だった俺がこの学校で生活できる時間は多くない。いつものように、ある程度関係を構築してからというには時間が足りない。
それに、時間が経つにつれて彼女の耳に俺の悪い噂が入ってしまう可能性が高い。
節操がなく無謀にもほどがあることは明らかだったが、それらを考慮すると即告白という選択をせざるを得なかった。そして――
「滝梓さん。好きです。俺と付き合ってください」
彼女のことを知った二日後の朝。
俺は彼女を空き教室に呼び出し、思いを告げた。
「それ、本気で言ってるんですか?」
「ああ、本気だ」
「――はっ、あり得ないんですけど」
返って来たのは嘲笑。
彼女は嘲るように続けた。
「普通、今まで話したことない人の告白にOKする訳ないじゃないですか。それも先輩みたいな凡人に」
「そ、それは……」
「てか、真竹先輩でしたっけ? 私、知ってるんですからね。先輩があの噂の振られたがりの変態だって」
「……っ!? どうしてそれを……」
まだ彼女が転校して来てから三日しか経っていないとういうのに……
「どうしてって。大体、こんな朝早く見ず知らずの人の呼び出しに応じる時点でおかしいと思わなかったんですか?」
「それは、君が素直でいい子だからと……」
「はっ、そんな訳ないじゃないんですか」
「だ、だったらどうして……」
「せっかくだから、忠告してあげようと思ったからですよ」
「忠告……?」
それは今までにないパターンだった。
「先輩、もう少し分をわきまえたらどうですか? どう考えたって、先輩みたいな凡人が私レベルの女子と付き合えるわけないじゃないですか」
「――っ、そんなことはわかっている」
「いやいや、わかってないから、今日も告白してるんですよね?」
「――っ、違う」
「何が違うんですか?」
「そ、それは言えない――」
美少女と付き合えるまで告白し続ける。その決意だけは、誰かに伝えることはしないと決めていたから。
「何ですか、それ。もういいです。忠告しようなんて考えた私が馬鹿でした」
彼女はため息交じりにそう言うと、俺に背を向けてから続けた。
「真竹先輩、今後金輪際私に話しかけないでくださいね。迷惑なんで」
「――ああ、わかった」
「あっ、それと告白の答えですが、当然Noです。それじゃ」
ご丁寧に、最後に告白の答えを伝えてから彼女は俺の下を去って行った。
こうして、俺の15番目の告白もまた玉砕に終わり、最後に言われた通り彼女に関わらないよう残りの中学生活を過ごしたわけなのだが――
「心亜さん、聞いてた話と違いますよ!」
「え~、何が~」
「だって、心亜さん言いましたよね。同期は知的でいい感じの子だって」
アルバイト先の喫茶店内で、俺を15番目に振った美少女こと滝さんは、泣きつくように心亜の腕を掴んで離さない。
てか、知的でいい感じ?
心亜の中での俺の評価ってどうなってんの?
まあ、確かに学力に関しては最近かなりの所までは来ているが。
「お願いします、心亜さん。今からでいいので、別の人にしてください!」
「いやいや、もう雇用契約済ませちゃったみたいだし~」
「そ、そんな~」
心亜の諦めろと言わんばかりの態度に、滝さんがうなだれる。
「その、まあ何だ。実際シフトが被るのは昼の忙しい時間帯だけだし。な?」
「ほらほら、覚士っちがそう言ってるよ~」
俺のフォローに心亜が同意するようにそう言うが、依然として滝さんの険しい表情は変わらない。
本当に、どうしたものか……
過去の自分が引き起こしてしまった問題だけに、俺にはどうすることもできそうにない。そう思っていると――
「ねえ、梓。そんなに我がまま言ってると、勇生斗に嫌われるよ?~」
「――っ!?」
ほほう、なるほどな……
ニマニマとした笑みを浮かべた心亜の言葉に、滝さんが過剰な反応を見せた瞬間、俺は悟った。
どうやら滝さんはあのイケメンに気があるらしい。ならば――
「あ~あ~、信じられないかもしれないが、こう見えて俺は勇生斗のマブダチなんだけどな~」
「――はっ? う、嘘ですよね心亜さん!」
「うんん。覚士っちと勇生斗、いつも体育の時間ペア組んでるよ~」
「――っ!? そ、そんな……」
相当ショックだったのか、さっきよりも深く滝さんはうなだれる。
正直、友人をだしにするようなことはしたくないのだが、あのイケメンのことだ。きっと快く許してくれるだろう。
そう自分に都合よく言い聞かせながら、俺は開店準備の手伝いを始めるのだった。
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