第37話 これはデートだろうか?


 生徒会役員選挙が終わるとすぐにテスト週間に入るということもあり、選挙の打ち上げはテスト明けに行われることになった。


 そして、期末テストが終わり打ち上げが行われ、それ自体は無事に終わったのだが……


「ねえ、真竹くん」

「何だ?」

「よかったら明後日の土曜日、二人で出かけない?」

「そうだな……って」


 えっ?


 打ち上げの帰り道。


 郡山さんと二人で一緒に夜道を歩いていると、唐突にそう提案された。


 その意図を測りかねて答えを上手く返せないでいると、郡山さんは表情を不安げなものへと変える。


「もしかして、嫌だった?」

「――っ、い、いや、そんなことは……普通に何をするのかなと」

「あっ、確かに言ってなかったね。でも」

「でも?」

「それはできれば当日の秘密にしたいな」

「そ、そうか……」


 いや『そうか』ではない。


 秘密ってどういうことだ?


 もしかして俺に何かのサプライズとか……いや、そんなことをされるような覚えはないんだが!


「どうかな……?」

「……」


 基本的に土曜日は塾で勉強することにしているのだが、今は期末テスト明けということもあり今週は息抜きをするつもりだった。


 つまりは、予定自体はしっかりと空いている。空いているのだ――あれ?


 そこまで考えたところで、俺は自分が理解不能な思考をしていることに気づいた。


 予定が開いている時点で、今までの俺ならお世話になっている郡山さんの頼みを二つ返事で受け入れたはずだ。


 だというのに、どうして俺は郡山さんのお誘いの意図を考えたのか。


 そうだ、色々考える必要なんてないじゃないか。


「特に予定もないし、大丈夫だ」

「良かった!」

「――っ、そ、それで待ち合わせはいつにする?」

「そうだな~、朝の10時にいつもの分かれ道でどうかな?」

「わかった。じゃあ、朝の10時にいつもの分かれ道で」


 こうして、今週の土曜日の予定は早々に決まった。


 それにしても、俺の答えを聞いて郡山さんが笑顔を浮かべた時、それに反応するように心臓の鼓動が高まった。


 あれは何だったのだろうか。


 普段はフラットな表情なだけに、不意に笑顔を見せられて驚いたとか?


 いやいや、意味が分からない。


 今までだって、同じようなシチュエーションは何度もあったが、こんな風になったことはなかった。


 また、知らない感覚だ。


 当選者の発表時に続いて二度目。


 あの時のものですら、まだ何かわかっていないのに……


「そういえば、真竹くん。期末テストはどうだったの?」

「ん、ああ、そうだな……」


 それから俺は、答えの出ない問題を先送りにするように、再び郡山さんとの会話に集中するのだった。


         ※※※


 約束当日の朝。


 起きた時には、スマホの時計は既に9時半を過ぎていた。つまりは寝坊である。


 そして、その理由は単純。

 遠足前の子どものように、今日のことが気になって眠ることができなかった。


 本当に意味がわからない。

 どうして俺は今回のことが気になって仕方がないのだろうか。


「って、今はそんなこと考えてる場合じゃないだろ!」


 まずは鏡で自分の顔を確認する。


 今日に限って寝癖が酷い。

 それに、昨日の間に少し髭も生えている。


 俺はすぐに洗面所へ向かう。


 郡山さんと二人で出かける以上、俺といて恥をかかせる訳にはいかない。


 洗面所で顔が少しマシになったところで、今度は再び自室に戻りクローゼットを漁る。


 幸いなのは、今まで美少女の尻を追いかけていたおかげで、ファッションにはそれなりに精通していることだ。

 おかげで服選びには時間はかからない。

 

 紺色のシンプルな半そでシャツに黒色のチノパンを合わせ、清潔かつ落ち着いた雰囲気のコーディネートにまとめたところで再び時計を見る。


 待ち合わせまで後10分。


 うん、歩いていては間に合わない。


 家を出て、久しぶりにダッシュで道を進む。そして――


 えっ、何あれ……?


 何とか時間までに待ち合わせ場所が見えてきたところで、思わず俺は足を止めた。


 ライトブルーの半そでブラウスに、白の膝丈スカート。

 普段は後ろでまとめられている髪は思い切って下ろされていて、顔には薄っすらとメイクまでされている。


 待ち合わせ場所には、どう見ても今からデートを始めようとしている本気女子もとい郡山さんがいた。


 その普段とはかけ離れた様子の郡山さんに、俺は見とれてしまうのと同時に思う。


 もしかして、これがデートというやつなのだろうか。


 だって、そうでなければあんな……いや待て。


 そうだ、きっとこれから行く場所はあれくらいキメておかないと浮いてしまうような場所なんだ。そうに違いない!


 デートと考え浮つきそうになった自分を叱咤したところで、俺はようやく郡山さんに声をかける。


「わ、悪い。待たせたか?」

「うんん、今来たところだよ」


 そっか、今来たところか……って、何真に受けてるんだ。

 こんなのデートの待ち合わせの常套句だろう……えっ、デート?


 本当にデートじゃないよな? ないんだよな!?


「それじゃ、行こうか」

「あ、ああ……」


 俺の方はこんなに動揺しているというのに、郡山さんの方は相変わらずフラットなままで、早速最寄り駅へ向かって歩き出すのだった。









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