第31話 副会長の策略、限られる手段
選挙に立候補して一週間が経ち、ついにすべての立候補者が明らかになった。なったのだが……
「これは困ったことになったな」
八百三先輩の一言で、先週と同様空き教室に集まった俺たちに重たい空気が漂う。
理由は対立する候補者にある。
「私たちを除く候補者たちが、気持ち悪いくらい綺麗に票が分散されるようになっている」
今彼女が言ったように、俺たち以外の候補者全員が狙う支持層が見事に分かれてしまっているのだ。
そのせいで、本来なら俺たちの当選を後押しするはずの、対立候補同士による票の奪い合いが起こらなくなってしまった。
そして、そんな状況を引き起こせるのは一人しかない。
「やってくれたな、藤川のやつ」
「ああ、どうやら彼女は本気で私たちを潰す気らしい」
一週間前に宣戦布告されて以来、藤川が俺たちを潰すために動いていたのは潤さんから聞いて知っていた。
ただ、それは俺の周囲を崩す程度だろうと考えていたのだが、これは想像以上だ。
「唯一幸いというのは、候補者数自体は例年より少ないことくらいか……」
確かにそれは唯一の幸いといえることかもしれない。
藤川が根回しをした候補が複数人出るということで、候補を断念したのか今回は10人しか第二学年の立候補者はいない。
そういった点では、七割の生徒が当選するともいえる。実際その数字ほど簡単なことではないが。
まあそんなことより、俺には先にしなければならないことがある。
「郡山さん、本当にごめん。俺が至らないばかりに」
「えっ――」
俺は改めて隣に座る郡山さんに深く頭を下げる。
今回こんなことになったのは完全に過去の俺の行動が原因だ。
そのせいで、郡山さんに不利な戦いを強いることになってしまった。
突然の謝罪に郡山さんだけでなく、柴崎先輩と山野井先輩も動揺を見せる。
「べ、別に真竹くんが悪いわけではないよ……っ!」
「真梨恵の言う通りだ覚士。今回の絢瀬は少しやり過ぎだ!」
お優しい先輩二人からのフォローに、余計罪悪感が膨らんでしまう。そんな中――
「顔を上げて、真竹くん」
「郡山さん……」
「藤川さんの件がなくても、元から厳しい戦いなのは変わらないはずだよ」
「そ、それはそうかもしれないが――」
「だったら、私たちが今することは一つでしょ?」
そう言って、郡山さんは安心させるように小さな笑みを漏らすと――
「どうやったら選挙に勝てるか、今はそれを考えよう!」
「――っ!?」
あまりにも純粋で真っ直ぐで眩しい言葉に、言葉を失う。
郡山さんの言う通り、今、俺たちがすべきなのは選挙で勝つための方法を考えることだ。
「ありがとう、郡山さん。おかげで目が覚めた」
「うん」
郡山さんのおかげで気持ちがとても軽くなったところで、俺は他の三人から生暖かい視線を向けられていることに気づく。
誤解しないでもらいたいのだが、俺たちの関係はそんな視線を向けられるものでは断じてない。
俺は場の空気を変えるために少し強く咳ばらいをしてから、話を進めることにする。
「それじゃ、これからの方針を話し合いましょう。何か案がある人はいますか?」
俺の問いかけに八百三先輩が答える。
「郡山さんの方に関しては策がある」
「本当ですか……っ!?」
「ああ。といっても大したものではないがな」
それでも何か打てる手があるのなら十分だ。
「それで、その策というのは――」
「それは後で真梨恵に伝えておくからこの場では議論しない。議論するのは真竹くん。君の方だ」
まあ、状況的にそうなるよな。
「改めて状況を整理しよう。真竹くん、君が獲得するべき支持層はどんな生徒だ?」
「何か面白そうと思ってくれる生徒です」
「そうだ」
過去の俺の行動によって、正直真面目なアプローチでは他の立候補者たちには太刀打ちできない。
そこで作戦として立てたのが、過去の蛮行を逆手に取って、受けを狙いに行くものだった。
「ちなみに、面白そうだからと票を入れる生徒の割合は?」
「それほど多くはありません」
あっても、精々各学年100人行くか行かないくらいだろう。
「それでも勝機があったのは、今までは票が割れる前提があったからこそ」
「その通り。だが、絢瀬のせいで票が分散する可能性はほぼ無くなった。つまり――」
「本来取れる予定の層に加えて、さらに票を獲得しないといけない」
「はっきり言って、私にはそのいい案が思いつかない」
だから、この場で議論したいというわけだ。
とはいえ、俺の現状を考えるとかなり難しい難題だな……って。
何の躊躇いもなく山野井先輩が右手を挙げた。
「街子、何かいい案があるのか?」
「いい案も何も、この状況でやれることなんて一つだけでしょ」
山野井先輩は珍しく、真剣でかつ力強い瞳を俺に向けて言った。
「選挙当日の演説で一発かましな、覚士」
「「「「――っ!?」」」」
余りにも単純明快な案に、この場にいる四人全員が言葉を失う。
だが、確かに俺に取れる残された手段はそれしかない。
あいさつ回りのような根回しは藤川たちのほうが圧倒的に上手だ。
そのハンデを覆すには、選挙当日の演説で圧倒するほかない。
「八百三先輩」
「な、何だ。改まって……」
「一発、盛大にかましてやりましょう!」
「な、何をだ真竹くん――っ!?」
俺の決断に八百三先輩が戸惑いを見せる中、他の全員からは惜しみない拍手が送られるのだった。
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進行の都合上、今後の更新は二日に一回のペースで更新します。更新頻度が遅くなり申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
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