第28話 選挙に向けて
生徒会役員選挙に向けた話し合いのために、まずは軽く全員で自己紹介をすることになった。
当然トップバッターは今回の提案をした俺からだ。
「真竹覚士です。今回は俺たちに協力してくださりありがとうございます。これからよろしくお願いします」
特に何か突っ込まれることなく、みんな知ってるといったような表情で小さな拍手が送られる。
八百三先輩はともかく、他の二人からはあまりいい顔をされないかと思ったのだが、意外とそんなことはなかった。
俺が自己紹介を終えると、次は郡山さんが口を開く。
「Ⅱ年3組の郡山夕です。至らない点も多いですが、これからよろしくお願いします」
誠実な郡山さんの言葉に、俺の時より少し大きな拍手が送られる。それに加えて、心なしか現生徒会メンバーの表情も少し柔らかいような気がする。
どうやら第一印象は良かったようだ。
俺たちが自己紹介を終えると、今度は現生徒会メンバーの番になる。
「先日会ったばかりではあるが、改めて。現生徒会長の八百三椿だ。今日から二人が当選できるよう協力は惜しまないので、いつでも頼って欲しい」
頼もしい言葉に俺たちは気持ち深めに頭を下げると、視線を八百三先輩の隣に座るセミロングの女子生徒へ向ける。
「副会長の
「詳しいことは後で伝えるが、郡山さんの応援演説は真梨恵に頼む予定だ」
八百三先輩の補足を受けて、柴崎先輩が郡山さんに優しく微笑みかける。
一応言っておくと、柴崎先輩は確かに副会長だが、俺を嫌っている副会長ではない。
うちの学校の生徒会は各学年から一人ずつ副会長を出すことになっていて、俺を嫌っているのはもう一人の副会長になる。
「それじゃ、最後は街子、頼む」
「おう」
八百三先輩から促され、残っていたボーイッシュな女子の先輩が意気揚々と口を開く。
「アタシは書記の
「おい街子、面白そうだからとは――」
「まあこう言ってる椿だが、本当は覚士と一緒に演説したいから、真梨恵に郡山さんの演説を任せたんだ。これ豆知識な」
「――っ、街子……っ!?」
何が豆知識かはわからないが、聞かなかったことにしよう。
とまあ八百三先輩以外の二人はこんな感じだ。
柴崎先輩は真面目で大人しめの性格で、山野井先輩のほうは見ての通り少しやんちゃな性格をしている。
ただ二人とも人望はすごく厚く、柴崎先輩は文化部に強く、山野井先輩は運動部に強いため、本当に強力な味方だ。
正直、この二人が協力してくれるとは思っても見なかった。
俺は協力してくれるメンバーに感謝しながら、依然として顔を赤くしている八百三先輩に代わって話を進める。
「それでは、具体的な方針について決めましょうか」
それから俺たちは、改めて選挙の仕組みについて振り返る。
生徒会役員の定員は、二年生7名に一年生3名の計10名。
前年度に役員だった3人は基本的に当選すると考えるため、俺と郡山さんは実質4つの枠を狙うということになる。
例年、前年度の役員を除いた候補者が15人前後と考えると、3、4人に1人しか当選しないことになる。厳しい現実だ。
そして肝心の投票形式だが、一年生の候補者は生徒一人が一人の候補者に入れる形である一方、二年生の候補者に関しては生徒一人が候補者の中から三人を選んで投票することになる。
「例年、生徒に与えられた3人の投票権のうち、必ず前年度の経験者の名前が1人か2人書かれている」
「そのことを踏まえると、必然的に俺たちは残った最後の1枠に投票してもらう必要がありますね」
「そういうことになるな」
改めて整理してみると、かなり厳しい戦いであるということがよくわかる。
「念のため確認したいのだが、君たちの目標は二人とも当選なのだろうか?」
八百三先輩の問いに、俺は郡山さんのほうを見ると、彼女は俺に任せるといった感じで頷く。
「一番いいのは当然二人で当選することです。ただ、それが難しい場合は郡山さんの当選を優先してほしいです」
「――っ、そ、そうか……」
俺の回答に、八百三先輩が若干表情を歪めながら頷く。ちなみに柴崎先輩は頬を僅かに染めながら口に両手を当て、山野井先輩は俺にサムズアップしてくる。
そんな三種三様の反応を見せた後、現生徒会メンバーたちは今度は同じ厳しい表情を浮かべながら続けた。
「これは中々骨が折れそうだな~」
「ええ。どうやってお互いの票を奪い合わないようにするのか」
「あいさつ回りの反応を見てから、判断するしかあるまい……」
どうやら二人揃って当選というのは、現生徒会メンバーの力を借りてもなお、かなり至難の業らしい。
「とりあえず、現時点で言えることは一つだけだな」
何らかの結論を出したのか、八百三先輩が全体をみながら告げる。
「まずは、あいさつ回りに使う公約を考える。ただし、二人の内容が被らないようにな」
確かに、今できることはそれくらいしかないか。
「それにあたって、とりあえず二つのグループに分かれようと思うんだが、いいだろうか?」
全員問題ないと頷く。
「ではグループ分けだが、応援演説のことを踏まえて、私と真竹くん、真梨恵と郡山さんは一緒として、あとは――」
そう言って八百三先輩が山野井先輩を見ると、彼女はニヤッと笑みを浮かべる。
「私は真梨恵の方に行くよ。だって彼女のほうが優先なんだもんね、覚士」
「はい、郡山さん優先です」
俺としても郡山さんに助力してもらえると助かる。
「――っ、そ、そいうことなら私と真竹くんということで……」
「はい、よろしくお願いします」
こうして、選挙に向けた基本的な体制が決まるのだった。
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