第26話 郡山さんの知らない一面
「真竹くん、生徒会長と知り合いだったんだね」
「ま、まあな……」
カフェを出ると、郡山さんから『へえ~そうなんだ~』くらいの軽いテンションでそう言われ、微妙な相づちを打つ。
結局あの後、八百三先輩から昨日の勧誘の件について改めて謝罪され、せめてものお詫びと彼女自作の抹茶モンブランを頂くことになった。普通に美味しかった。
ちなみにこのカフェの店主は八百三先輩の叔母に当たる人らしく、時折お手伝いをしているのだとか。
よく考えれば、店の名前の『
「生徒会長か~、すごいよね~」
「そうだな。俺には絶対に務まらない」
「でも、会長すごく真竹くんに生徒会に入って欲しそうだったけど……」
確かにモンブランをご賞味にあずかっている最中、時折昨日の事に関係なく、生徒会入りを考えてもらえないかと言われた。
「そういう郡山さんはどうなんだ?」
「えっ、私? う~ん、やってみたいこともなくはない、かな?」
「へ~、意外だな」
郡山さんの性格的に、あまり生徒会に興味はないと思っていたのだが……
「私、部活に入ってるわけでもないし、何か頑張ってみてもいいかなって。それに、数千人の生徒を引っ張っていく経験なんて、この先ないかもしれないから」
「なるほど……」
振り返ってみると、俺も高校に入ってから美少女の尻を追いかけることと勉強以外は特に何か頑張ったという記憶はない。
そう思うと、本当に俺の内申は大丈夫だろうかと若干心配になる。
そして何より、生徒会で得られる経験の魅力について、俺はあまり考えていなかったように思う。
俺が生徒会にお邪魔していた時は生徒総会に向けた書類作成など地味な仕事が多かったが、二学期に入れば体育祭や文化祭の運営といった、郡山さんが言ったようなあまり経験できない仕事ができるはずだ。
そう考えると、内申点以外にも生徒会に入るメリットはあるのかもしれない。だとすれば――
「郡山さん、よかったら選挙に出ないか?」
「えっ――」
突然の提案に郡山さんが珍しく表情を驚きのものに変える。
「少しでもやりたいって思ってるんだったら、挑戦したほうがいいと思うんだ」
「けど、私じゃ選挙には……」
「それなら大丈夫だ。俺に良い考えがある」
「良い考え?」
「ああ」
そう、とっても良い考えがある。
まあ、その代わり俺のほうもそれなりの代償を払わなければならないが、普段からお世話になっている郡山さんのためだ。背に腹は代えられない。
「どうだ?」
「――わかった、やってみるよ。でもその作戦って?」
「それは月曜日に話したい。色々と俺の方でも準備があるから」
「そっか、なら週明けに聞かせてね」
「よし、そうと決まれば郡山さん。今日はここで解散ってことでいいかな?」
本当は郡山さんの参考書選びにも付き合いたいところだったが、やはり動くのなら早い方がいい。
「別にそれはいいけど……」
「ありがとう。それじゃ気をつけて帰ってくれ」
「うん、またね~」
若干困惑気味の郡山さんに申し訳なく思いながらも、俺はさっきまでいたカフェへと向った。
※※※
「はあ~」
「大丈夫? 椿ちゃん」
真竹くんが店から出た後、カウンターにうなだれるようにしていた私に叔母が心配そうに声をかけてくれる。
「大丈夫です。少し考え事をしていただけですので」
「それって、さっきの男の子のこと?」
「ええ、まあ」
「ということは、あの子が蓮さんが言っていた子なのね」
「えっ、まあ、多分そうかと……」
どうやら私と彼との間にあった話は親戚の間でも広がっているらしい……うぅ、恥ずかしいぃ……
「それで、何を悩んでいるの?」
「さっき、彼と一緒にいた女の子を覚えていますか?」
「ええ。素朴な感じでかわいらしかったわね」
「叔母様は、彼女をどう思いますか? 彼女なのかと探りを入れてみても、ただの友達ですと彼は答えたのですが」
二人で平然とこんな場所に来て、さすがにただの友達というのは考えられない。
もしかして、私が昨日告白したことを気にして、あえて嘘をついているとか……しかし、それでは最初から彼女がいるのでと断れば済む話だ。
もしかすると、周囲には秘密の関係だったり……何とロマンティックな、羨ましい……っ!
私が逡巡している問に、考えをまとめた叔母は平然と答える。
「普通にそのままの意味じゃない?」
「――っ、というと」
「別に付き合っていなくても、男女二人で出かけることなんてよくあることよ」
「そ、そういうものですか……」
「ええ。というか、普通は何回かそういったことを積み重ねてから交際に発展するものよ」
「な、何と……」
「ふふ、椿ちゃんは初心なのね」
「――っ」
再び自身の未熟さを指摘され、頬が熱くなる。
「まあ、あの感じだと残された時間は少なそうだし、頑張るなら早い方がいいと思うわよ」
「――っ、き、肝に銘じておきます」
叔母の言う通り、私に残されたチャンスは本当に少ないのだろう。
改めてそう実感してると、店の扉がゆっくりと開かれる。
手伝っている以上、気持ちを切り替えて接客をしなければ。
そう思い、いらっしゃいませと言おうと開いた扉の方へ視線を向けると。
「八百三先輩、今から少しお時間を頂いてもいいですか?」
先ほどまで話題に上がっていた少年が、額に薄っすらと汗を浮かべながら立っていた。
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