第25話 久しぶりのカフェ巡り
潤さんがキレたり、凪咲との関係が変わったり、挙句の果てに八百三先輩から謎の勧誘を受けたりと、この一週間は本当に色々あった。
そのせいで、かなり疲労が溜まっていたのだろう。
普段はどんなに遅くても朝の8時には目が覚めるところが、今日はそれよりも2時間長く眠ってしまっていた。
おかげで、身体の状態はかなり良い。
だが、精神の方はそうでもないようだ。
ここ最近の休日といえば、朝から晩まで勉強尽くしの一択で今日もそのつもりだったのだが、まったく勉強する気になれない。
明日もこのままというわけにはいかないため、何かしらの気分転換が必要だ。
となると、そうだな……
「久しぶりにカフェ巡りでもするか」
甘い物でも食べればきっと気分もスッキリするはずだ。
早速、俺は目ぼしい店を見つけ、昼食を軽く取ってから家を出る。
すると、いつもの分かれ道で偶然郡山さんと鉢合わせた。
「あっ、真竹くん。こんにちわ」
「おっ、おう。こんにちわ……」
少しぎこちない挨拶になってしまったが許してほしい。
何というか、おはようやバイバイといった挨拶は自然にできるのに、不思議とこんにちわは上手くできないのだ。
たぶん、使う頻度が関係しているのだろう。
と、そんなことより、郡山さんの雰囲気がいつもと違う。
髪型はポニーテールとまでは行かないが、普段よりも高い位置でまとめられているし、初めて見る私服は薄青のブラウスにベージュのチノパンとクールな感じにまとめられていて、どこかのオフィスにいそうな感じだ。
これが郡山さんの休日モードか……
「どうしたの……?」
「ああ、いや何でも。それより今日はどうしたんだ?」
制服ではないので塾に行くというわけではないだろう。
「欲しい参考書があるから駅前の本屋に行こうかなって。真竹くんは?」
「俺か? 俺は気分転換に隣駅にあるカフェに行こうかと」
「あっ、それって前言ってたカフェ巡り?」
「そうだけど……」
俺の目的を聞いたところで、郡山さんは少し考えた後、口を開く。
「よかったら、私もついて行っていいかな?」
「えっ、まあ別にいいけど……って」
これってまさかデートのお誘いでは……?
一瞬そう考え思考が止まりかけるが、それは違うと頭を振る。
郡山さんとは良くも悪くも普通の友達同士だ。
俺が異性として彼女に好意を持っているならデートになるかもしれないが、そんなことはない。もちろん、彼女の方も俺と同じだろう。
「ありがとう。それじゃ行こう」
「お、おう……」
それから俺たちは最寄り駅に向かって歩き出した。
※※※
隣駅で降りた俺たちは、そこからさらに数分歩き小さな路地を曲がったところにあった古民家を改装した様子の建物の前で立ち止まった。
「ここ?」
「ああ」
「カフェって、抹茶カフェのことだったんだね」
郡山さんの言う通り、木でつくられた立派な立て看板には『抹茶カフェ――
「すごい今さらなんだが、抹茶は大丈夫か?」
本人が特にどこへ行くか聞いてこなかったので伝えていなかったのだが、一応念のため聞いておく。
「大丈夫。けっこう好きだよ」
「そうか、良かった。なら入ろう」
「うん」
扉を引いたのと同時に鳴った綺麗な鈴の音と共に、俺たちは店内へと入る。
隠れ家的な店というだけあって、店内は物静かでこぢんまりとしており、俺たち以外のお客は常連と思われる老夫婦だけだ。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
浴衣姿の美人店主から好きな席に座っていいと言われ、俺たちは木目調の天板で作られたカウンター席に並んで腰を下ろし、メニューを確認する。
うむ、すごく迷うな……
特に魅力的なのは、定番の抹茶ラテと抹茶。
何でもここの店主、茶道はかなりの腕らしく点てたお茶は絶品だとか。せっかくなら純粋に抹茶そのものを堪能したいところだが……
「決めた。私は抹茶ラテにするよ」
迷っている間に、郡山さんが先に注文を決めてしまう。
まずいな、ここで俺だけグズグズ悩むわけにはいかない。
「じゃあ、俺は抹茶にしよう」
言っておくが、断じてシェア狙いなどではない。
純粋に、郡山さんと違う方を頼もうと考えただけだ。
二つの飲み物に加えて焼き菓子を注文をすると、10分ほどで頼んだ飲み物がやって来た。
店主が作り始めて少しした頃には、カウンター越しに抹茶の香りが漂ってきて、早く抹茶を堪能したいという欲求で俺の脳は満たされている。
「「いただきます」」
二人同時に、飲み物を口にする。そして――
うん。これ、ヤバい。
一口飲んだだけで、口いっぱいに抹茶の濃厚さが広がって行く。
点てられた抹茶を飲むのは初めてなのだが、これ程とは。
気になって隣の郡山さんを見てみると、今まで見たことないほどに幸せそうだ。どうやら抹茶ラテの方も抜群に美味しいらしい。
あまりの抹茶の美味しさに、あっさり俺たちは完食してしまった。
少々名残惜しくはあるが、こういうのは少しだけ堪能するからこそ良いというのは、今までの経験で学んでいる。
「それじゃ郡山さん、行こうか」
そう言って、会計を済まそうとした。その時だった。
「――っ、真竹覚士くん……っ!?」
「えっ、八百三先輩?」
カウンターの奥から出てきた大和撫子に、俺は驚きを露わにするのだった。
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