第23話 最後に俺を振った美少女


 昨日、潤さんが生徒会に呼ばれていたと聞いて、俺は嫌な予感を覚えた。


 そして今日、その予感は真っ先に的中した。


「失礼する。真竹覚士くんはいるだろうか?」


 昼休み、早坂兄妹に凪咲と潤さんを加えた面子で昼食を取っていると、教室に一人の女子生徒がやって来た。


 すらりと伸びた手足に長い黒髪、そして切れ長の瞳が特徴的な大人びた顔立ちときめ細かい雪のような白い肌。

 制服の上からでは目立たないが、他の生徒曰く着やせしているらしく、出るところもそれなりに出ているらしい。


 まさに大和撫子と呼ぶにふさわしい美少女の入室に、教室が一瞬でざわめきに包まれる。それにしても――


「一体、誰に用なんだろうな?」


 きっと隣で俺の方を訝し気に見てくる潤さんにだろう。

 イケメン曰く、生徒会に目をつけられたらしいからな。


 そんな感じで難聴スキルを使ってみたものの、一緒にご飯を食べている四人から――否、教室全体から呆れたような視線を向けられる。


 そんなことをされれば、あの美少女が俺に気づかないわけがない。


 彼女はクラスメイト達の視線を辿り、俺を見つけると優雅な足取りでこちらに来る。そして――


「やあ、その、久しぶりだね。真竹覚士くん」

「そ、そうですね。八百三先輩」


 この学校の生徒会長であり、最後に俺を振った美少女である八百三椿やおみつばき先輩と俺は、互いにぎこちない挨拶を交わすのだった。


         ※※※


 八百三先輩に告って玉砕したことは、以前も少し語ったと思うので割愛させていただくが、さてはて。


「一体、どうしたんですか?」


 二人で話したいことがあると言われ、俺は八百三先輩と人気のない空き教室へと連れてこられた。


 俺が用件を尋ねると、八百三先輩は一度姿勢を正してから答える。


「単刀直入に言おう。真竹覚士くん、来期の生徒会に入らないか?」


 生徒会に入る……俺が?


「きゅ、急ですね。理由を聞かせてもらえませんか?」

「もちろんだ。主に理由は二つある。一つ目は、純粋に君の能力が高いからだ」

「能力が高い、ですか……」


 一体、何を根拠にそんなことを言っているのだろうか。


「どうやらその様子だと気づいていなかったみたいだね。君が生徒会室に来ていた間、約一名を除いて他のメンバーはかなり君の仕事ぶりを評価していた」

「そ、それは初耳ですね……」


 てっきり、その約一名であろう副会長と同様、他のメンバーも会長に好意を持って近づいていたことに嫌悪感を抱いていたと思っていたのだが……


「それだけではない。当時の君は生徒会メンバー以外に私の周囲の友人からも評判がよかった。上級生にも好かれている、これは素晴らしいことだ」

「うっ、そ、そうでしょうか……」


 生徒会メンバーの件は本当に知らなかったが、残りの友人たちの件に関しては、以前俺が少しでも印象を良くしようと裏工作をした結果だ。


 まさか、こんなことになってしまうなんて……


「そ、それで二つ目の理由というのは?」


 これ以上は聞くに堪えなかったので、話題を次へと進めると、八百三先輩は少しだけ表情を曇らせる。


「少し下賤な理由かもしれないが、君が潤怜奈さんに好かれているからだ」


 ここで潤さんの名前が出てくるということは――


「もしかして、潤さんが生徒会に入る条件として出したんですか?」

「いや、彼女はそんな条件は出していない。ただ単に、生徒会に入れば君といられる時間が減ってしまうと、そう言っただけだ」


 なるほどな……


「つまり、俺が生徒会に入れば潤さんもそれについて入ってくれるだろう。だから、俺を誘ってきたということですね?」

「君にとっては不快な話だろうが、そうなる」


 まあ、潤さんの能力の高さを考えれば、少し強引な手を使ってでも引き入れたくなるものだろう。とはいえ。


「残念ですが、俺は生徒会に入る気はありません」


 理解できるとは言っても、それを受け入れることはできない。


「そうか……念のため理由を聞かせてもらえないだろうか」

「まず第一に、俺じゃ選挙を突破できません」


 うちの学校で生徒会に入るためには、まず生徒会役員選挙に出て、当選する必要がある。

 そして、さすが一学年800人いるだけあって、毎年その倍率はかなり高い。

 とてもではないが、俺のように変な噂が立っているような人間では勝つことはできないだろう。


 だが、八百三先輩は何だそんなことかと言った様子で答える。


「それなら問題ない。私が君の応援演説をすれば済む話だ」

「なっ……いや、でもそれは――」

「副会長なら私が演説をしなくても当選するさ」

「うっ……」


 まるでこちらの心を見透かしたような回答に、何も言えなくなる。


 確かに八百三先輩が応援演説をしてくれるのなら、俺はいわば会長公認みたいなもの。余程のことがない限り、俺が落ちると言うこともなくなるだろう。


 ただし、本来、八百三先輩に演説をしてほしかったであろう副会長には恨みをかうことになるだろうが。


「他に何かあるかな?」

「そうですね、なら純粋に生徒会に入るメリットがないです」


 生徒会に入ることで内申点は非常に高くなることは言うまでもなく、それによって大学の推薦入試を受けることが可能になる。


 ただ、俺の場合は勉強で十分希望する大学に進学することはできるため、はっきりいってメリットはほとんどない。


 俺の答えを聞いて、僅かに八百三先輩は考え込む。そして――


「メリットがあれば、入ってくれるのだな?」

「えっ、ま、まあ内容次第では……」

「わかった」


 そう言うと、なぜか八百三先輩は急に恥ずかしそうに頬を朱に染めると、続けた。


「君は確か、私のことがその……す、好きなのだな?」

「えっ……」


 どうして今更それを……?


「だからその、もし君が生徒会に入ってくれれば――」


 ま、まさかこの展開は――


「わ、私が真竹覚士くん、君の彼女になろう……っ!」


 ど、どうしてこうなるんだ……っ!?


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