第41話 告白とカミングアウト

 何発もの連続花火が終わると、花火大会終了のアナウンスが流れた。


 30分程続いた花火は、見事な連続花火で終焉を迎えた。


 その間に話したことは何気ない話。


 過去の重たい話はお互いに避けていた。


 海の時には一切話さなかった宿題の事。


 この後の夏休みの予定の事。


 2学期は修学旅行と文化祭がある事。


 そして花火が終わると、お互いに沈黙。


 数秒続いた沈黙を破ったのは、隣にいる四月一日さんだった。


「私も一つ告白して良いかしら?」


 ちょっとだけ委員長口調に戻ってるな。


「あのね、前に……泊まった時に、あの海行った時の話ね。」

 

「ごはんの時に【巨大まつたけ】って言ったの覚えてる?」


「うん。」


 あれはまつたけではなく、【松きのこ】という類似品だけど。


「えっとね。その……ね。」


 どうにも煮えくり返らない、歯切れが悪いな。


「その……ったの。」


「へ?なんて?」


「見ちゃった……の。」


「何を?」


「見えちゃった……の!」


 だから何が見えちゃったのさ1


 ん?何……ナニ……んんッ?


「ホテルに着いて、男女で部屋別れて温泉に入って、戻ってきて男子部屋にご飯までちょっとお話しようと行ったら……」


 あぁ、俺が居眠りしてた時か。


「ゆ、浴衣が開けて、その……隙間から、見えちゃってたの。月見里君の……が!」


 ヴぇ……


「そ、それで。夕飯でアレが出てきて……お、思い出しちゃって。【巨大まつたけ】って。」


「おーあー」


 思わず身体の向きを変えて、四月一日さんの両肩をガシっと掴んでしまった。


 ちょっと驚いているみたいだけど、痛がっている様子はない。


「み、見た……の?」


 四月一日さんは顔を赤らめてコクリと首を縦に振る。


「マジ……で?」


「マジ……です。」


「お父さん以外で初めて見ました。」


 そりゃお義父さん以外ので見た事あるって言われても困るけど。


 って何故に【お義父さん】になってるんだよ、俺の脳内!


 俺は思わず「キッ!」っと赤星達に視線を移す。


 目線があった赤星は吹けもしない口笛をふぃ~ふぃ~と鳴らしている。


 五月七日さんは「あははー」とにこやかに笑っている。そして何故か右手親指を立てて「GJ」とかやってる。






「だ、だから……ね。不公平だと思うの。」


「ナニが?」


「その……不可抗力だったとはいえ、月見里君だけ見られてるって事が。」


「どゆこと?」


 いや、本当にどういう事よ。不可抗力と言えば、俺だって海で庇うためとはいえ、四月一日さんのおぱーい見ちゃってるぞ。


 何なら他の利用客に見られないよう、抱き寄せて生で触れちゃってるぞ。


「私、薄毛だからとても恥ずかしいけど……」


 何をカミングアウトしてるのこの子。


 というか、海での出来事色々思い出いちゃうから、色々想像しちゃうから。


 ん?想像?そういう感覚、感情……あったんだ俺。


「ちょっと前に、浴衣の下は下着を着用してるのか議論があったよね。」


「あったけど?」


「……の。」


 四月一日さんが肩を掴んだままの俺に身体を、上半身を寄せて耳元で囁いた。


「何も身に着けてないの。」


 俺にはそう聞こえた。それが本当かどうかは定かじゃないけど。


 本当に何をカミングアウトしてるんだろう。


「一歩でも何かが進んだらね、告白しようと思ってたの。」


 何か進んだっけ俺達。


「月見里君が言いたくても言えないコト、今日は言ってくれた。それは私にとってはもの凄く大きな一歩なの。」


「なんで避けられてるのかとか、なんで躱されてるのかとか、そういう事考えた事ないって思ってないよね?」


「私だってそういう事考えてる。毎度ズケズケ行き過ぎが良くないのかなとか、無神経な事言ってないかなとか、本当は嫌だけど嫌って言えないだけなんじゃないのかなとか……」


 ズルいな。


 目に涙浮かべるのはズルい。


 でも、そのズルさが……何故か嫌じゃない。


 この流れだったらさっきの見せる云々の話は上手く流せそう……だな。


「やっぱり俺は四月一日さんに結構失礼な事してたんだな。」


 それに対しては四月一日さんは返事をしない。


 肯定も否定も出来ないって事なのかもしれないけど。


 俺ももう一歩進むべきかもしれない。



「じゃぁ、お友達からって事で。」


「これまで友達ですらなかったのかーーーーー!」


 四月一日さんの絶叫が周囲に響いた。


 五月七日さんはただただ笑っている。

 

 赤星は指を差して腹に手を抑えて笑ってやがる。  

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