第39話 浴衣裁判

「綺麗だ、可愛い。」


 待ち合わせ場所に集合すると、そこには既に浴衣姿の四月一日さんと五月七日さんが待っていた。


 二人とも色と微妙に柄の違う浴衣。


 四月一日さんは、薄いピンク生地に花柄が絞りで表現されていた。


 五月七日さんは、薄い茶色生地に、同じように絞りで花柄を表現された浴衣だった。



「これ、GWに草木染体験に行った時に作ったやつなんだよね。」


「染色と絞りは自分でやりました。」



 五月七日さんが先に説明して、四月一日さんが追加で補足した。



「どう見えるかわからないけど、自分で染めるってオンリーワン感があって良いよね。」


「市販のポリエステルだと、色々残念だし。せっかくなら特別感とか可愛らしさを出したくて。」


 市販でも綿とか麻とかあるし、二人の浴衣の生地は綿と麻が50%だった。


 通気性とか汗とか色々都合が良いらしい。


 保温性や柔らかな特徴の綿と、吸湿性や放湿性や通気性が良い特徴の麻。


 綿より通気性が良く、麻みたいに固くない・チクチクしないという、綿麻にはそのような特徴があるという。



「そういえば、さっきの綺麗や可愛いって何に対して?」


 五月七日さんが意地悪そうに小さな笑みを浮かべながら訊ねてくる。


「そ、そりゃ浴衣と……浴衣を纏った四月一日さんが、に決まってるだろ。」


 端から聞いたらただの殺し文句だな、どこのハードボイルド気取りだよ。


「あら、私は?」


「五月七日も綺麗で可愛いよ。」


「無理して言わせたみたいね。まぁ、穂寿美を褒めたから許してあげる。」


 でもその四月一日さん、顔面真っ赤で機関車になって「ぷしゅー」ってしてるぞ。




 思わず綺麗だの可愛いだの漏れてしまったけど、普段と髪型も違うんだ。


 ポニテとは違うけど、普段はロングのストレートなのに、今日は浴衣用にまとめてあげてある。


 ちょっと大人っぽいとでも言えば良いのだろうか。


 妖艶って言葉が当てはまりそう。


 この姿でりんご飴とか舐めてたりチョコバナナを咥えてたりしてみぃ、世の男子ならエロい想像してしまうだろ?



「夏に一歩進むカップル達の理由を垣間見た気がする。」



「月見里は何を想像したんだ?大体わかるけど。」


 ヲイ赤星よ。お前も同じこと想像してたんじゃないのか?




「や、月見里君も似合ってて素敵……だよ。」


 俺と赤星の男性陣も男物の浴衣を着ている。


 帯の結び方は良くわからないので、貝の口という比較的わかり易い結び方にした。



「お、おう。」


 褒められなれてはいない、イケメンじゃないからな。


「語彙力低下したな。」


「したねぇ。照れてるねぇ。」


 おい赤星に五月七日さんよ。覚えておけ。


「そういや弘憲からは何もないね。」


「言わなくてもわかってるだろ。」



「だとしても、言わなければならない場面って知ってる?」


「あ、あぁ。とても似合ってて可愛いよ佐祐理。」


 ヲイ、お前らもう下の名前で呼び合ってるのかよ、隠す気ゼロかよ、ストロングなゼロかよ。



「何から周ろうか。」


「とりあえず、型抜きと的当てと……」


「小学生かっ!」


 そう言いながらもどちらも堪能した。


 あとちょっとという所で邪魔が入り砕け散る型抜き。


 いや、邪魔というよりは、本人は応援の心算なんだろうけど、浴衣っていう薄着で際どい身体のラインが見えたりする状況で密着してくるのよ。


 体操服とはまた違った刺激と感触よ。


 そりゃ動揺して指先が狂うってもんよ。


「兄ちゃん、いいとこ見せられなかったな。」なんて店のおっちゃんには言われるし。


 あ、チョコバナナはやっぱりえっちかったよ?


 黒いチョコをベースに、先端にはさらにホワイトチョコでコーティングしてあるんだもの。


 

「巨大まつたけ……」


 なんて意味のわからない事を口にする四月一日さんには、疑問符しか浮かばなかったけど。



「チョコ、付いてる。」


 ハンカチを取り出すと、俺は四月一日さんの口元に付着していたチョコソースを拭き取った。


「ひゃっ。」


 驚いたのか恥ずかしかったのか、四月一日さんの目が点になっていたのを見逃さない。


「ポイントアップ。」


「これで付き合ってないんだからねぇ。今日からでも良いから正式に付き合っちゃえば良いのに。」




「そういや、迷信かもしれないけど浴衣って、下着身に着けないって言うじゃん?実際二人はどうなの?」


 という赤星のやべぇ質問が女性陣に突き刺さる。


「見てみる?」


 挑発してくる五月七日さん。


「実際はサラシ巻いてたりするだろ。例え抑えつけるモンがなくても。」


 言ってから俺は失礼な事を言ってるなと思ったけど……


「ギルティ!月見里ギルティ!さ・い・ばん♪ソレ!さ・い・ばん♪」


 五月七日さんが妙に盛り上がってるな。その両手で広げてる扇子、どこで買ったんだよ。




「それでは被告人、月見里真宵。」


 地べたは可哀想という理由で、ベンチに正座をさせられている俺。


 裁判官は五月七日さんで検察が赤星。


「女性に胸があろうとなかろうとそういうのはハラスメントになる事は知っているな?」


 いや、その発言も既にセクハラなんじゃ……



「それでは証人、証人台へ。」


 四月一日さんは証人か。一体何を証言するというんだ?


「百聞は一見に如かず、百見は一触に如かずと言います。それなら私の……に直に触れてみれば良いと思います。」


「ぱ?」


「よ?」


「えー?」


「ん?」


 胸元を両手で広げる四月一日さん。


 まともに胸が見える事はないけれど、サラシが姿を現した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る