第36話 打ち上げはファミレスで
「打ち上げじゃー。」
「未成年だし運転手だから、誰一人お酒はないけどね。」
「ドリンクバーで宴って言われても。」
お姉さんが音頭を取って、躑躅森さんがツッコミを入れて、俺が現実を告げた。
俺の隣では四月一日さんが厳しい目つきで、反対の隣に座っている雅に眼光ビームを飛ばしている。
間にいる俺も喰らってないか?
というか、身体密着してないか?
近所まで戻ってきて、最寄り程は近くないファミレスへとインした。
ここから家まで車で30分はまだ掛かるだろうけど。
端的に言えば隣町、またはそのさらに隣町といったところか。
それならば知り合いもいまい。誰かに聞かれたり見られたりのリスクは限りなくゼロに近いだろう。
「キャットファイトは禁止ね。お店や他の利用客に迷惑だから。」
それならなぜファミレスで語り合わせようとした、お姉さん。
「モテる男は辛いな、少年。」
フォローする気ないでしょ躑躅森さん。
タッチパネルで早々に注文を済ませたため、今は運ばれてくるのを待っている状態だ。
みんな肉ばっか、女子は結構肉食なんだなと思った。
一日動いていたし、体力は使ってるだろうしな。
「こんだけ隣で密着してるんだから、来年にはおぎゃーだよね。」
何を言ってるのかわからないよ、四月一日さん。
「は?ナニ言ってるの、やることやってないのにデキるわけないでしょ。」
雅は雅で現実を毒っぽく言いやがるな。
目の前のステーキの肉汁が怖いものに見えてきたよ。
何この微妙な肉食獣二人。
六人掛けのロングな席で助かったけど、これは一番奥の四月一日さんはおろか俺もトイレにすらいけない、ドリングバーもいけない。
「そういえば彩楓、500部完売でいくらだっけ。」
彩楓というのは躑躅森さんの下の名前、二人は下の名前で呼び合っている。
サークルにいる時はそうではないけど。
「ROM1枚千円だから、50万。新グッズが500円と800円でそれぞれ200だから……」
なんかえげつない会話してるな。ROM500部がどのくらいかわからんけど。
同人誌と換算すれば、結構な量かなと想像出来るけど。
「企業勢とかはもっとえげつないよー。部数も桁が違うし。」
「個人でやってると、1枚のROM作るのも大きいからね。」
DVDケースが100枚で5千円と仮定して……
10枚500円、1枚50円。これにパッケージを印刷して……
印刷媒体や紙、ROMを焼くためのドライブとかの投資は別にして。
1枚のROMを作成するのに100円と仮定したとして……
まぁ良い金額だなヲイ。
「お姉ちゃん、なんで焼肉とかすき焼きじゃないの。ファミレスで打ち上げなの。」
売上の一部を聞いて四月一日さんがお姉さんを標的に変えた。
でも、俺達はお姉さんのサークルの手伝いはしてないから、ファミレスでも充分だと思うんだよ?
車の中で、打ち上げの料金は全部サークル持ちと宣言してくれてたからな。
つまりは、目の前に並んでるステーキも、この後くるデザートも、何度かお代わりしているドリンクも、全部お姉さん持ちだ。
「うちも200作ったけど、少し残っちゃったね。」
衣装作成のお礼でROMを貰っているけど、俺はこれまでのモノを含めて一度も開封していない。
別に雅を虐めたいわけではないんだけど、結果的にはそうなってるかも知れないとは思ってる。
「多すぎて在庫抱えるのも問題だし、少なくてすぐ完売になるのも問題だしね、そこんとこは毎回難しいよ。だからウチは毎回最大500って決めてる。」
「千でも良いんだけど、荷物の持ち運びも考えるとね。嵩張るし。」
まぁ200持ってきて少し残るくらいなら、充分凄いとは思うけどな。
年々コスプレイヤー増えるし、綺麗だったり可愛かったり再現性高かったりする人増えてるわけだし。
可愛いだけで売れてた時代じゃないからなぁ。
勿論エロいだけでも売れないし。
「そういや二人の衣装、どっちも義弟君が作成したんだって?」
うおっと、なんか俺に飛び火してきたぞ。義弟についてはツッコミするのもめんどい。
「個人作成を考えると、凄い出来だよね。ちゃんと対価は貰ってる?善意でとか勉強になるからと、無償でやってたりしそうだけど。」
「材料費は貰ってますけど……」
そういや、金銭的な報酬は得てないな。
未開封とはいえ、雅からはROMは貰ってるけど、四月一日さんは今回が初めてだ。
サークル参加しているわけでもないので、収入はない。
「ラッキースケベじゃなくて、普通のスケベでも貰わないと割に合わないよねぇ。」
ナニを言ってるのお姉さん。
「いっそ二人を孕ませるとかいうのも手。だって隣接がどうとかって、あのゲームのネタでしょ。そのまま二人がずっと隣にいたら、二人が孕むという事も……」
「ナニを言ってるの躑躅森さん。感情の抜けた声でそう言う事いうの辞めて貰えません?」
「まぁ身体で払う云々は冗談にして、きっちり対価は貰いなさいという話よ。将来的な意味でね、人が動けばお金がかかる。これは当たり前の事よ。わかってないユーザーが多いけど。」
「ちなみに私はサークルチケットと、売り上げの一部と……ね。」
なぜ躑躅森さんはそこでお姉さんを見るんだろうか。聞いてはいけないナニかがあるって事か。
「それで話は振り出しに戻すけど、月見里君を巡って妹と幼馴染が争ってると言う話で良い?」
「やっぱりラブコメ臭がする。次回作のネタにしてイイ?もちろん18禁で。」
さらっと躑躅森さんが怖い事を言ってる。
そういえば、お姉さんのスペースに見慣れない同人誌がいくつか置いてあったっけ。
あれは委託のようだったけど、躑躅森さんの本って事だったのかな。
そういえば、これだけ色々積極的な四月一日さんだけど、好きとか愛してるみたいな言葉は言われた事ないんだよな。
照れなのか、これまでの事がネタなのかはわからないけど。
冷めたら勿体ないと、運ばれていた食べ物を消化していく。
そもそも俺は視線などに耐えながら黙々と食べていたけど。
「結局何も解決してないんだけど……」
話し合いなど何もしていない。サークル運営はすげぇなという事がわかったくらいだ。
あとはちょっと揶揄われた感がある程度で。
「夏祭りの月見里君は私のだから。もう約束してるし。証人もいるし。」
確かに約束してる、それについては俺は反故にするつもりはない。
「それは……先約だし、私が入り込もうとする余地はないけど。」
なんで雅が俺に固執するのかもわからない。お前は俺を華麗に振ったろ。
「女心は複雑なんだよ、男心も複雑だろうけど。」
「いっそ出会い厨や速結厨なら対応も楽なんだけどねぇ。」
「義弟君がさっさと妹とフォーリンラブしてくれてれば、それで済む話なんだけどねぇ。義弟君にも色々あるみたいだしさぁ。」
お姉さんと躑躅森さんが好き勝手に言ってるけど、確かに俺自身色々複雑だ。
端的に言えば、俺は四月一日さんの事も無条件で受け入れてるわけじゃない。
それでも何故か流されるままにここまで来たのは、多分嫌な気はしていないという事なんだろう。
振られるだけなら、今後もあるだろうしそれなりに覚悟もするだろうから、また押しつぶされるなんて事は無いと思うけど。
信じていたものから裏切られるような、期待していたものを裏切られるような思いは無理だと思う。
ここまでしている四月一日さんが、俺が実は好きだから正式に付き合ってくれと言って、ごめんなさいときたら、中1の時以上の衝撃だろう。
同じ状況ではないけど。
陰で否定されるのはもっと嫌だ。
端的に言えば、俺は恋愛事に臆病になっていると言えるんだろうな。
「無関係の第三者からすれば、リア充爆ぜろーとか、二股許さんとかいう状況なんだろうけどねぇ。」
「誰も好きとか言ってないのがミソだよね。ヘタレなのか奥手なのかネタなのかはわからないけど。」
うん、全部聞こえてるからな、大学生ども。
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