第35話 夏コミ3 躑躅森さんが喋った
「ナニコレ。修羅場?ねぇ、修羅場?」
四月一日姉、夢月さんが四月一日さんと正面で目を見開いている雅を交互に見て呟いている。
いや、指を差すなって。表情が面白がっているようにしか見えないよ。
「真宵、用事があるからコミケには来れないって……」
「正確には雅のとこの売り子とかセッティングが出来ない、だけどな。」
それだって、元々は手伝う義務も必要もないんだけど。
今までだってなんでやってたのかわからないくらいだ。
というか、四月一日さんの掴み方が強くなってきてるんですが?
なんで?
「それよりも四月一日さん。」
「はい。」
「なんでしょう。」
いや、姉は暫く黙ってて、確かに貴女も四月一日さんだけど、今はぷちめろんさんでしょう。
「真宵に引っ付きすぎじゃなくて?」
雅が怒る意味もわからない。雅が興奮する意味もわからない。
「や、月見里君は……私のだもん。少なくとも今日は……」
最初の言葉が詰まった「や」は、嫌という意味な気がしてきた。子供がだだを捏ねる時に「や」とか「やー」とかみたいな。
てか、俺は四月一日さんのものになった覚えはないけど、確かに今日は専属カメコであったし、コミケに来たことのない四月一日さんの保護者というか同行者ではある……な。
これ以上は人が集まって来そうだな……
なんて思ってると横から助け舟になるかわからないが、夢月さんから声があがる。
「若人よ。打ち上げで散々想いの丈をぶちまけるが良い。」
「後部座席、詰めれば3人イケるぞ。両手に華だぞ、月見里君。姉としては妹を選んで欲しいけど、こういうのはきっちり話合うが良かろうなのだ。」
助け舟じゃなかった、火に油だった。
そうは思ったけど、現状をこのままにはしておけないのも事実で、そういった意味では助け舟か。
第三者からすれば、何かモメてるぞってだけだしな。
「とりあえず、着替えて来ましょう。」
「なんであんたら三人で更衣室に向かうんよ。」
夢月さんが四月一日さんと雅をドナドナしていく。
「今朝から見てるから違和感はないんですけど、あんまり変わらないですね。」
ぷちめろん……四月一日夢月さん、服装は今朝と違うんだけど、髪型は変わらないし、メイクはちょっと違う程度なので、コスプレなのか普段着なのかわからない見た目をしていた。
確かに車がメインとはいえ、多少なりとも汗を吸ってるわけだし、行きと帰りで服装が違うというのもあるかもしれない。
事実四月一日さんも行きとは違うし。雅は行きを知らんからなんとも言えないけど。
ドナドナされていった女性陣を見送った俺は、残された同乗者……
雅のとこで何度か手伝いをしたかいがあってか、然程難しくもなく作業が出来た。
「ファンならこういうの欲しいんじゃない?」
「でかPOPですか?真実を知る前だったら喉から手が出る程欲しいと思ったでしょうけど。四月一日さんを困らせてまで欲しがるものでもないかなというのが現実ですね。」
「夢月に言えば簡単にくれそうだけどねぇ。実際終わった後のこういうのって処分に困るのよ。とっておいてオークションとかやっても良いんだけど。」
「近所にコンテナ借りてるんだけど、過去のアレコレでいっぱいなんだよね。今度3つ目借りようか真剣に考えてたくらい。」
実際にはぎゅうぎゅうに詰めてるわけではなく、整理しやすいように纏めて保管しているらしいけど。
コンテナ二つで収まらないってどんだけ凄いんだろうか。
売れ残ったグッズとか、イベントで使用したPOPとか、様々なものが保管されてるとか。
それなりに人気があって、配信とかして一定の固定客がいても、実情は大変という事か。
これが企業(会社)なら倉庫にしまっておけるとかあるんだろうけど……
「大手サークルもみんなそんな感じなんですかね。本とか凄いだろうし。」
「完売といっても、それは持参したものが完売なだけで、後日ショップに卸したり、ネット通販用だったりと色々あるから、多かれ少なかれ在庫のようなものはあるだろうねぇ。」
「そういや雅もコスROMの売れ残りがどうとか言ってた時期あったな。」
最初から売れてたわけじゃないし、最初は全てが手製だったし。今は印刷とかケースとかは発注してるみたいだけど。
手焼きROM時代は、正直何が入ってるかわからないから購入し辛いもんな。
サンプルで印刷したものを置くくらいしかできないし。
ケースの背表紙に数枚、表紙にデカデカと写真を載せるのが主流だしな。
「それで、あの子とはどういう関係なんだい?」
「雅の事ですか?今日知り合ったばかりの人に言って良いものかどうか。」
「そりゃ確かにそうだね。まさかセフレとかじゃないだろう?」
「まごうことなき童貞でヤンス。」
言ってて恥ずかしい。ヤンスってなんだよ。
「当事者達には言えない事も、第三者なら言える事ってのもあるんじゃないかと思ってね。夢月にも知られたら面倒な事ってあるんじゃない?」
「う~ん。端的に言うと雅とは小中高の幼馴染ですね。それと俺の初恋の人であって、中学の時にこっぴどく振ってくれた相手。」
「ナニソノラブコメ臭。振った幼馴染が他の女とくっつきそうになって、漸く自分の気持ちに気付いたとかってやつかな?」
「それはないでしょう。」
「何があったかまでは聞かないけど、はっきり言わなければ済まない事ってあるよねぇ。」
まぁ俺はもう雅の事を異性として好きという感情はないしな。幼馴染として友人としての付き合いは未だに続いてるけど。
不思議なんだよ、振られるとその瞬間パタっと感情が消えるパターンと、いつまでも好きという感情が消えないパターンと。
俺は前者だったらしく、好きでいられなくなった。
これがラブコメ作品だと、実はアレは~とか言って結局はくっつくパターンもあるだろうけど。
「お主、トラウマ系主人公か。」
「なんですって?」
「まだ十代なんだし、大いに恋愛を楽しみたまえ。」
「いや、躑躅森さんもお姉さんもまだ十代じゃないですか。」
大学一年生だと聞いてるので、誕生日が来ていてもまだ十代だ、ガラスの十代だ。
そういや、お姉さんの事は学校で見た事なかったな、違う高校だったのかな。
「おまたせー。ってナニそのクマみたいな目。」
「更衣室で修羅場ってねー。二人してガクガク掴み合って身体を揺すって、偶然とはいえヘッドバットが互いに決まってねぇ。」
「スタッフから追い出される前に、どうにか着替えが終わったってとこ。」
軽く解説してくれたお姉さん。
そういえば心の中で、ぷちめろんさんとも夢月さんとも思ってないな、お姉さんになってる。
「あ、ちなみにバトった理由は……オタクあるあるカプ論争だ。タチネコ論争とも言う。」
「どうでもええがな。」
雅は一旦自分のスペースを片付けるとの事で戻っていった。
別にそのまま解散でも良いんじゃないかと思ってる俺がいる。
「それはそれ、これはこれみたいだよ、
どうやらお姉さんの中でも、俺は四月一日さんとくっつくのが決定事項らしい。
「なんで俺の上に座るんだよ。」
それも最初に一番奥に一旦座ったはずなのに。
雅は手伝ってくれた仲間とは現地で解散したらしく、荷物をトランクに入れると最後に後部座席に座った。
それと、俺の腿に座った四月一日さんだが、何故か感覚が……感触がおかしい。
「なんでスカートが広がってるのさ。」
このツッコミは雅だった。
うん、つまり、俺の腿には四月一日さんの下着と直の太腿の裏側が触れているというわけだ。
そりゃ変な感覚とか感触とかするはずだよ。
これ、あれだよな。背面座位とかいうやつだよな?
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