第32話 巨大まつたけ

※今話は三人称でお送りします。月見里君は寝ています。



「部屋に入って直ぐに寝てしまうとは。一旦温泉に入ってからにすればいいのに。」


 宿に着いた一行は、男女それぞれ部屋に分かれ夕飯時に待ち合わせを決めていた。


 それまでの間は、荷物を整理したり温泉に浸かったりと男子は男子、女子は女子の時間を設けたのである。


 貸し切り風呂はあるものの、混浴はないため、変なハプニングとかサプライズはほぼ存在しない。


 精々浴衣が開けるとかその程度だ。卓球台やゲームの類はゲームコーナーには一応存在している。


「ってまぁいいか。」


 室温は適度で、月見里がパンツとシャツの上に浴衣一枚羽織って寝ているのは仕方がない。


 本当はこの後温泉に向かう予定ではあったからだ。


 その前にちょっと横になったら……疲れていたのか眠ってしまったというわけだ。


「一人で行ってもなぁ。」


 かれこれ月見里が居眠りをこいてから20分程は経過している。


 赤星は自分の荷物を置いた後、月見里と同じように浴衣に着替え、ちょっと雑談してから月見里と温泉に向かうはずだった。


 しかし、月見里が眠ってしまったため、充電器に繋いだスマホを弄り始めた。


 主に、撮影した海での写真を確認するためだ。


「オイル塗る写真は……五月七日経由で四月一日さんへ送って貰うか。」



「それにしても、こいつが四月一日さんで元気になるなんてな。もうあれから5年近く経つのに、色恋は遮断しようとするんだからよう。」


「それに、掛布も当事者の癖になんで過度な接触するんだかな。」


 赤星の頭の中では、月見里に腕を絡める掛布雅の姿が思い起こされていた。


 

「今になって惜しくなったか?」



「月見里自身は気付いてるかわからないけど、随分いい表情するようにはなったとは思うけどな。これも四月一日さんの影響か。」


「棚ぼたで俺にもが出来たしな。」


 写真を見ながら独り言を呟いていると、部屋のノックが赤星の耳に入る。


 写真に集中していたため、「入っていい?」という言葉に、「あぁ、いいよ。」と答えている赤星。


 まぁ月見里は寝てるだけだし、別にいいだろと。寝顔見られるくらいは愛嬌だと。



「おじゃましまーす。」


「邪魔するならかえれー。」


「中学生かっ!」


 こういうやり取りをするくらいには、急接近な赤星と五月七日の二人。


 浴衣に身を包み、ちょっと火照り気味の女子二人。既に温泉に一度入ってきたことが窺える。


 男女に分かれ、部屋に入ってから1時間近くが経過している。


 夕飯まではあと1時間近くあるため、女性人は男性陣の部屋で話でもしようと思っていたのである。


 普通に考えれば、ケアを含めて男子の方が女子よりも風呂は短い。


 自分達が風呂上りで戻ってきているのだから、男性陣も戻っているだろうという考えであった。



「月見里なら寝てるぞ、だから俺達はまだ風呂には行っていない。」


「ふ~ん。まぁ寝顔という特典、イベントスチルは抑え……」


「寝顔……月見里君の寝顔……」


「四月一日さん、月見里の事になると本当普段と別人だよな。」


 三者三葉の言葉を漏らし、件の月見里を見る。


「ま、まつたけ……」


「うわっ、これは……」


「な、なにコレ……」


 再び三者三葉の言葉を上げる。


 しかし、三人がナニを見たのかは最初の五月七日のまつたけ発言で理解出来る。


 そして、まつたけという言葉でわかる通り、皮は被っていない。


 全日本の約七割が仮性と言われている中で、まつたけ完全体なのである。


 幸い元気にはなっていないので、テントは張っていない。


 いや、この場合は元気になってテントを張っていた方が、直に見られなくて済んだかもしれない。


 その場合はタマゴの方が見られていたかもしれないが。



 浴衣が開け、下着の隙間から月見里の月見里がぽろりとしていたのだ。


 じゃじゃまる~♪ぴっころ~♪ぽ~ろり~♪である。


 ときど~きあっち向いてぷんっ!である。



「一応月見里の名誉のために、今見た事は忘れてやってくれ。これは俺がこの立場だったら見て見ぬ振りして欲しい場面だし。」


「そ、そうね。彼女でもないのに見ちゃいけない奴だし。」


「こ、これが……これがさっき海の中で……」


 動揺しているのは最後のセリフである四月一日だけであった。


 カマトトぶろうと清純振ろうと、先程海の中で自分のお腹に当たっていたのが、このまつたけが戦闘態勢に入ったものだとは理解していた。



「雑談交わそうかと思ったけど、やめとくわ。暫くしたら起こしてやって温泉にでも浸かって来な。海入って頭ごわごわしてるだろうし。」


 そう言って、入室して3分もせずに五月七日は四月一日の腕を取って部屋から退出していく。



 部屋に戻る途中、といっても部屋は隣なのだが、自室の扉を開ける前に五月七日は動きを止めた。


「それで、予期せぬ出来事だったけど、見た感想は?」


 五月七日がしれっと四月一日へと問いかける。


「わ、私も直で見られたし、胸とお腹とはいえ触れられたので……おあいこって事で。」


 上半身と下半身では全く違うのだが、当人同士は当然その限りではない。


「ん?そういう事ではなくって。初めて見た感想なんだけど。」


「……おあいこって事で。」


 そこそこふてぶてしくなった四月一日であったが、その顔は当然真っ赤であった。






 その後、何食わぬ顔をして月見里を起こすと、赤星は二人で大浴場へと向かった。


 大浴場と露天風呂を堪能すると、男子二人は部屋に戻り軽く雑談を交わす。


 主に写真交換を中心に。



 そして時間が来たために、男性陣と女性陣は食事処へと移動する。


 既に並べられていた前菜やお造りに加え、時間を見計らって食事が運ばれてくる。



 ある食事が運ばれてきた時に、思わず五月七日が言葉を漏らす。


「巨大まつたけ!」


 まだ旬の季節には早いが、この宿ではまつたけ……に良く似た松きのこが夕飯に提供されていた。


 一応赤星の身内価格ならぬ特別サービスである。

 

 そもそもお品書きを見れば、それがまつたけではなく松きのこである事は明示されていた。


「ねぇねえ、さっきの月見里君のとどっちが立派?」


 五月七日が四月一日に問いかける。どっちが立派かとは、今目の前に置かれているまつたけと月見里の股間に生えていたまつたけの事である。


「そそっ、それを私に聞かれてもっ。」



「なんの話だ?」


 知らぬが仏という事で、この話題はこれ以降は禁句となった。


 月見里の隣の席に座っている四月一日の顔は暫く真っ赤に、なぜか身体をくねらせモジモジしていた。

 

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