第29話 え?宿題って何のこと?

「7月ももう終わりかぁ。」


「早いねぇ。そして海が近づいてるねぇ。」



 俺は宿題を7月の内に出来るだけ一気にやってしまう派だ。


 詰め込んで一ヶ月遊んで本当に身についてるのかって?


 良いんだよ。自力でやったんだから。


 最初の数日は家でやっていた。


 でも、つい高校野球の甲子園予選を見てしまうので、集中力向上のために図書館で宿題をするようになった。


 図書館にはフリースペースがあって、携帯の充電からお茶などの無料ドリンクなど、サービス満点なのである。


 後は、程よく冷房も効いており、宿題をするにはとても良い環境なのだ。

 

 図書館という性質上、煩くて集中出来ないという事もない。

 

 多少の話声くらいはちょっとしたBGMだ。いや、ASMRかもしれん。


「図書室だと冷房効いてるから薄着だとちょっと寒く感じるかも知れん。」


「そうだねぇ。私もちょっと薄着し過ぎちゃったかも。月見里君があたためてくれても良いんだよ。」


 ちらりと横を見ると……


 何故か隣には四月一日さんがいる。


 不思議だ……


 家凸されるのよりは良いけど。


 そういや、四月一日さんの家には行った事あるけど、四月一日さんが俺の家に来たことはないな。


 いや、宿題をやっている時には気付かなかった。それだけ集中していたのだろう。


 ふと意識を宿題から手放した途端に気配を感じるようになった。


 人間の視界は120度くらいは捉えているという。その視界の端に誰かいたのだ。


 まぁ、誰かって四月一日さんなわけだけども。


 それで薄着云々な四月一日さんだけど……


 見えてるんだよ、見えちゃってるんだよ。


 そういうのはきょにうな人がやるんだよ。


 きょにうじゃないから、四月一日さん見えちゃってるんだよ、下着が。



「四月一日さん、言い難いんだけど、見えちゃってるよ。」


「見せてるんだよ。」


 びっちかい!


「ってのは冗談で、やり直し要求して良い?」


 顔を真っ赤にしてるってことは、本当は見えたらいけないものだったらしい、見せる意図はなかったらしい。


「恥ずかしいならだっちゅーのみたいにしなければよかったのに。」


「乙女心は複雑なんだよ。見せても良い時とか、見られても良い時には、女子は当然そういう時用の恰好だったり態度だったりするんだよ。」


 その女子心理は俺にはわからないけど、つまりは本当に今日は色々想定外だったという事か。


「私もたまに図書館に来てるから、月見里君の家系図とか色々歴史を知りたい時とか。今日は気分転換で宿題だけど。」


 それなんか口と言葉が合ってない気がするのだが……


 確かに机に広がってるのは、俺と教科は違うけど宿題だ。


「ウチ、別に先祖代々この街ってわけじゃないぞ。ルーツを調べても、地元の大地主とか代々住んでるとか過去の新聞とか見てもそういうのはないぞ。」


「そうみたいだね。でも過去の地図とか見ると面白かったりもするだよ。あ、ここは〇〇だったとか、あそこは〇〇だったとか。」


 確かにそういった面白みや発見はあるかもしれないな。戦国時代は田畑だったとか、草原だったとか、東京なんて半分は海だったしな。


 品川駅のすぐ近くが明治時代まで海だったとか信じられるか?


 上野あたりが大昔は海だったとかは聞いた事あるけど。


 お台場が埋立地と揶揄される事は知ってたけど、お高く留まってる所だって大昔は海だったり平原だったり戦場だったりしてるんだぞ。


 埼玉とか茨城だからってバカにすんな。


 微妙に茨城訛りで言っても心の中だと空しいな。




「私ん家を月見里君の家の隣に建て直したら……」


 こっちはこっちで、隣接云々スケールアップしたなぁヲイ。


 両親大変じゃないか。四月一日さんちも共働きみたいだけども。



 隣接する家か……


 そういや、雅とは昔は一緒に登校してたっけな、小学校は集団登校だから強制だったけど。


「むっ、今他の女の事考えてたよねっ。」


 確かに他の女の事を考えてはいたけど、俺は別に四月一日さんの男というわけでもない。

 

 周りが勝手に夫婦認定している節はあるけれど。




「そういや、水着とか買いに行かなくていいのか?」


 海は夏コミや夏祭りの前に計画されている。


 行先は終業式の日に、ビルガストでの会議で決まったのだ。


 最終候補は九十九里対湘南対熱海で、多数決で決まらなかったのでくじ引きで。


「それなんだけど、月見里君と一緒に見て回って買い物イベント発生させるのと、佐祐理と一緒に買いに行って当日のお楽しみイベントにするの、どっちが萌えポイント高いかなぁ?」


 しらんがな。

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