第28話 終業式の後
「覚えてるよね。」
いきなりそんな事言われてもわからん。
俺がわからんのだ、他の人はもっとわからん。
いや、言いたい事は全くわからんわけでもない。今日は終業式。
一学期の
最後のホームルームで、「ハメを外し過ぎてアブノーマルになるなよ。」という葛西先生のありがたいのかありがたくないのかわからない、別れの挨拶を終えた後なわけで。
その前には、遠山先生からの、「ヤンチャになっても不純異性交遊にあけくれるのも、肌を焼くのも良いけど、2学期になってソレを引っ張ってきたら、昨年の松井みたいにシゴくからな。勿論性的な意味じゃないぞ。」という言葉もあった。
松井の変貌を知っているクラスメイト達は、そのシゴキが全然美味しいものではない事を知っている。
一応中学ではちょっとヤバイ奴と聞いていたあの松井が、ちょい悪ノービス程度になってるんだぞ。
それで、そんな先生たちの挨拶が終わると、真っ先に帰る生徒、夏休みの予定について最終確認している生徒、のんびり帰り支度をしている生徒など様々だった。
その中で、例によって隣の席に座る四月一日さんといえば、先生が話している時からこちらを見ていた。
それは、倒したモンスターが仲魔になりたそうにこちらを見ているって生易しい目線や表情ではない。
かといって、捕食してやろうかというギトギトした目つきでもない。
言ってみればその中間。表情を翻訳すると、「早く終わって夏休みの予定について語り合いたいな。具体的にはどちらかの家で。」である。
答え合わせはしていないが、恐らくほぼ正解だろう。
そりゃそうだろ。期末テストの結果が戻ってきて、終業式が近づくと毎日のように連絡を入れてくるんだから。
学校で直接話せば良いと、外野なら思うだろうけれど、「やり取りをきっちり残して、取りこぼしのないようにしたいの。」という怖い事が返って来た。
四月一日さんの怖いところは、予定についての詳細が、二人っきりでも出来るし集団でも出来るような、都合の良い言い訳や逃げが使えるように纏められた事だ。
具体的な場所こそ全てが決まっているわけではないが、地元の夏祭り(花火と浴衣付)、県外へ海、夏コミ(何故か決定)は決定している。
どっちかの家で宿題……がないだけでも気は休まる。嫌いなわけではないが、宿題は自分のペースでヤリたい。
わからないところを聞いたり教えたり教えられたりというのは、一通りやり終わってからにすべきだ。
宿題は自分でやらなければ、身に付かないが持論だ。わからないところは聞けばいいとは思受けど、いきなりなんでも聞くのは、ゲームのクレクレ君と同じで好きではない。
でも、クレクレ君になっても良いのかなと思う事が一つある。
四月一日さんの俺に対するその異常なまでの高い好感度についてだ。
春に強制的に色々思い出さされたけれど、本当にアレだけで、吊り橋効果とか色々あったとしても、ラブが発生するものなのか?
決定的に好きに変わった瞬間はわからない。この人良いなという好感と、ラブの意味の好感は微妙に違うのだ。
それで、四月一日さんの覚えてるよね?だけど、この後作戦会議が待っているのだ。
一回家に帰って親に通信簿を見せてから……ではなく。このままファミレスに寄って昼飯を摘まみながら会議なのだ。
「ビルガストで良いか?」
横から集合場所を提案してきたのは赤星。その横には五月七日さんもいる。
字は違うが、甲竜伝説とゲームメーカーと格安ファミレスを足したような微妙な名前だ。著作権とかコンプラ大丈夫か?
「第何回目かわからない、夏休みの予定について詰めたいと思います。意見は挙手にて。」
A4ノートを広げて、纏め役と書記を同時にこなそうとする四月一日さん。なぜ伊達メガネをかけている。
ちょっとだけ何か胸にくるもんがあるぞ。
おい、四月一日さんの横でにまにましてる五月七日さん、気になるぞ!
そんな五月七日さんをチラ見している赤星、怪しすぎるぞ!
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