第26話 おそろいのキーホルダー、マブダチ裁判
「おっすー。」
教室に入るなり俺に声を掛けてきたのは、小中高と腐れ縁の赤星弘憲。
運動してるわけじゃないのに、ほぼ常にスポーツ狩りにしている。
足は速いが、リレーやマラソンの代表には進んでなろうとしない。
こいつが出ないせいで、俺が体育祭で走る羽目になったと言っても過言ではない。
「おはー。」
俺達は適当に挨拶を済ませる。
「おっ。お前ら仲進展したのか?」
四月一日さんが普通に歩いてるのを見て、担任公認送り迎えがもう不要と察したのか?
だから一緒に登校してきた俺達に向かって、そんな言葉を吐くのか?
「夫婦仲良く登下校、羨ましいこった。」
「だれが夫婦漫才やねんっ。」
「漫才言うてないがなー。」
「おはよう、赤星君。」
委員長……四月一日さんは真面目というかなんというか。
昨今男女の隔たりなく、互いに苗字呼び捨てなのが世の常なのに。
って俺も四月一日さんって呼んでるけどさ。
「なんだよ。おそろい~の白いシャツも……じゃなくて、おそろいのキーホルダー鞄に付けちゃって。あれかペアルックか。ペアルックなのか。」
他の人には聞こえないように、俺の耳元で囁くように赤星が囁いてくる。
野田ID野球もビックリだよ。
「なっ……」
そういえば、四月一日さんが鞄に付けてるのを見てすっかり忘れてた。
俺も学校鞄にぷちめろんさんのアクキーを付けたんだった。
だって、日曜日は学校では見た事のないプライベートに付けてたから、被らないと思って油断してた。
「昼めしの時にkwsk。」
「いや、普通に詳しくと聞けよ。」
「それで、なんでこの4人で昼食なんだ?」
俺の隣には四月一日さん、俺の正面には赤星、赤星の隣で四月一日さんの向かいには五月七日さんが席をくっつけて、一つのテーブルにしていた。
小学校の頃の給食とかこんな感じで机をくっつけてたよな。あ、中学もか。
「穂寿美から根掘り葉掘り聞かないとね。」
「俺も月見里から根掘り葉掘り聞かないと。安心しろ、別に言いふらしたりはしないから。ただ納得したいだけだから。」
言いふらさなくても、面白がってるようにしか感じなんだけど?
とりあえず、日曜日にばったり街中で会って、ラーメン食べて、アニメイ党での買い物を大体時系列に沿って説明した。
「なんだよ、デートかよッ。」
「デートだねー。」
「なんだよ、その外堀。デートじゃねぇ。約束して待ち合わせしたわけじゃないんだからデートじゃねぇ。」
「じゃぁ運命だ。」
はっ?なんて?
「だってそうだろ月見里。待ち合わせもしていないのに、お互い空腹の状態で出会って、一緒に昼めし食って、アニメイ党とはいえ買い物して、プレゼントまでして。」
「これをデートと言わず、運命と言わずなんて言うんだろうねー。」
ちなみに四月一日さんは、顔を赤くして卵焼きを突いていた。
いやいや、必要以上に外出はしないけど、同じ市内やで?鉢合わせする事もあるだろうよ。
「だけどな、この1年数ヶ月。街中で会ってはないだろ?四月一日さんが今年急接近してからこういう事が起きてるだろ?」
「そうだねぇ。やっぱり運命だよねぇ。いーなー。私も旦那ほしー。」
そこは彼氏欲しいじゃないのかよ。そりゃ高2だから年齢的に女子は結婚出来るだろうけどさ。
「私達まだ結婚してないよ。月見里君まだ18歳じゃないし。」
うぉい。四月一日さんもその会話に乗っかるのかよ!
さっきまで顔真っ赤にして卵焼きつついてたくせに。
ほら、穴だらけのフジツボみたいな卵焼きの変わり果てた姿!
「俺、完全無視して話進んでない?赤星はともかく、五月七日さんまで悪乗りは……」
「別に悪乗りじゃないよ。これでも穂寿美の親友だしね、親友としては色々
なんか、応援と書いてヤジと読んでたような?
なんだよ、甲子園を本拠地に持つ球団みたいな応援は!
「どっちつかずな月見里の気持ちもわからんではない。でも、あまり邪険にするのもどうかと思うぞ。」
そういや赤星は俺のマブダチだしな。中1の時のあの事も色々知ってるし、寧ろ赤星がいなければ、ちょっとキチガイだけど妹がいなければ、立ち直ってなかったろうし。
だからこういう言い回しをしてるんだろう。
「俺が四月一日さんを愛してるって言えば済むって?」
そりゃ嫌いじゃない、嫌いじゃないさ。勿論無関心というわけでも……
【俺が四月一日さんを愛してる】
うぉい!誰だ、録音して都合よく切り取った奴は!
まぁ【俺は】ではないから変な使われ方はしないだろうけども。
「ごめんね。この会話は録音させていただいていたの。」
なんだよ、その近年の電話の挨拶みたいなやつ。
この電話は品質向上のためり録音させていただきます……ってやつ。
某ガンダムの「お前を殺す」並みに破壊力あるな。
「距離感がって思うなら、仲の良い友達からって思えば?」
始めたら……と言わないところが赤星らしいな。
茶化しながらも、赤星は俺の事を気遣ってはくれている。
中1の時の、雅との時の事があるから、根っこの部分では俺の事を思って発言しているように思える。
「とりあえず……昼飯食おうぜ。弁当食べる時間がなくなるぞ。」
俺は現実を引き戻そうと、本来やらなければならない事を口にした。
「送り迎えのお礼に、暫くお弁当作って来ようか?」
四月一日さんは、最後にとんでもない爆弾を耳元で炸裂させていった。
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