第24話 日曜日夜の四月一日家・姉の部屋

「ちょっとお姉ちゃん!!」


 月見里君とのデート(私がデートだと思えばそれはもうデート。)から帰ると、靴をしまうと階段を上って姉・夢月の部屋へと向かった。


 いや、姉が悪いというわけではないんだけど……ないんだけど、やっぱり許せない。


「あらどうした妹よー。って、なんであんたがそのアクキーを!?」


 幸いではなかったようなので、突然乱入しても問題ない。

 

「なんでお姉ちゃんが月見里君のなのよっ!」


「知らんがな。」


 モウモウバッファローのように鼻息荒くまくしたてる私を、お姉ちゃんが頭をなでて落ち着かせてくる。


 私は猛牛打線か!、地下鉄バッファローズか!


 モウモウバッファローは、とあるVRゲームのモンスターだ。ってそんなことはどうでも良い。


 魅力に極振りしたプレーヤーが可愛くてぶっ飛んでて、物凄く賑わっていたゲーム。


 お姉ちゃんはプレイしていたけど、私はプレイしていない。


「ほぅらよしよし。なんかよくわからんが、よしよ~し。」


 お姉ちゃんの方が少し背が低いため、ちょっと背伸びして私の頭をなでなでする。


 悪かったね、デカ女で。


 って誰にツッコミ説明してるのよ。デカくはないよ、お姉ちゃんよりは高いだけで。


 心の中では委員長キャラなんか出ないわよ、これが素ってわけでもないけど、あながち嘘というわけでもない。


 誰だって心の中とか、家での態度とかはそう簡単には見せないでしょ?


 決して口が悪いわけではなくってよ、おほほ……


 お姉ちゃんの部屋には、コスプレ衣装が掛けられている。


 クローゼットの中にも掛かっているのを知っている。


 壁にはアニメだけではなく、実写のポスターも貼ってある。


 その実写というのはお姉ちゃんなんだけど……


「アニメイ党に言ったんじゃなかったっけ?それでなんで私が月見里君の推しになるのさ?」


 ふーふーとしていても仕方ない。伝家の宝刀、かくかくしかじかで説明しようっと。


「ほうほう、偶然街中で会って、一緒にラーメン食べて、アニメイ党で月見里君の買い物に付き合って?それからどうした妹よ。」


 淡々と話す私の言葉に、お姉ちゃんは復唱するように聞いてくれる。


「私は華麗にスルーしたお姉ちゃんのコーナーの前で立ち止まって、ポストカードとかアクキーとか買ってったの。しかもダブって買ったやつを私にプレゼントしてくれたの!」


「ん?プレゼントを貰ったんなら別に良いじゃないか。ダブって買ったからってのには聞き流すけど。」


「初デートで初プレゼントは正直に嬉しいけど。贈ったものがお姉ちゃんのグッズというのが耐えられないの!」


「それって自称初デートに自称初プレゼントでしょ。」


「確かに、【いや、それは違う】って言われたけど、私がそう思ってれば幸せなんだから、それで良いの。」


「月見里君も結構サバサバしてるね。好意がないわけでもないけど、好意があるというわけでもないって事か。」


「そんな!?」


「でも、本当に何とも思ってなければ、体育祭で保健室に運んでくれたり、それ以降家まで送ってくれたり、ラーメンはともかく何かくれたりはしないとは思うけどね。」


 そうよね、何も思ってなければ、例えお姉ちゃんの悪気ーアクキーとはいえ、私にくれたりしないよね。


「それで我が妹よ、月見里君は【ぷちめろん】が私だとは知らないんだろう?別に浮気者でもなければヤリチ〇でもなかろう。」


「お姉ちゃん下品。」


「カマトトぶるな、妹よ。隣になっただけで子供が出来るとか言っていたあんたに比べればマシってもんよ。」


「お父さんとお母さんもずっと隣だったって言ってたよ。」


「そりゃぁ、然るべき時に然るべく行為をしていたから、私ら子供が出来たんだけどな。」


 確かに真実はそうかもしれないけど。もっと乙女チックとかロマンチックとかないのかな。


 どうせお姉ちゃんの事だから、「乙女じゃないし。」とか言いそうだけど。


「お姉ちゃんがレイヤー時代からの推しって言ってた。」


 コスプレイヤーとして活動していたお姉ちゃんは、大学に入ってから頻度は減った。


 その代わり、家で配信するようになったんだけど。


 コスプレ時代を知ってる固定ファン層が、そのままリスナーになってるから最初から一定のスパチャだか投げ銭だかの収入がる。


 大学の学費に当ててるのがお姉ちゃんらしいけど……


「配信は最近……まだ1年未満だしね。ありがたい事にリスナーも一定数ついていてくれてるし。ってそれは別に良いんだけど。」


「そういえば、推しとは聞いたけどリスナーかまでは聞いてなかった。」


「別にそれはよくない?」


「月見里君の【好き】が、どんな形であれお姉ちゃんに向いてるのが嫌。」


「わがまいめ。ちなみに、わがまま妹めの略ね。」


「でも、貰ったアクキーは鞄に付けてるんでしょ?」


「まぁそれは月見里君からのプレゼントだしぃ。」


 そう言った時の私はちょっとにへらぁっとしてたんだろうな、お姉ちゃんが呆れた顔をしている。


「アイドルにガチ恋なんてごくごく一部だし、月見里君が私……「ぷちめろん」にガチ恋してるわけじゃないんでしょ?推しと言ってるわけだからガチ恋じゃないでしょ。」


「いつ気付くかが見ものだね……」


 月見里君がウチに何度も来てくれればチャンス……


 あぁでも夢を壊しちゃうかな?


 推しがまさかクラスメイトの姉だなんて。


「いつまで人の胸に顔を埋めてるんだ?」


「う~ん、この胸枕、全然柔らかくない。」


「殺すぞ。」


 そして私はお姉ちゃんからウメボシを喰らうのだった。うん、痛い。お姉ちゃんマジウメボシだって。私は嵐を呼ぶ幼稚園児じゃないって!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る