第22話 ラーメンとキュンポイント

「あ、四月一日さん。」



 町をブラブラしてると、偶然四月一日さんを発見した。


 

 多分買い物でもしてたんだろう、何か中身の入った布の袋を持っている。



 気のせいじゃなければ、アニメショップから出てきたようだけど。



 それにしても、もう膝は良いようだ。



 荷物を持った状態でも普通に歩けていたし。



 普通に歩いていたからこそ、最初四月一日さんとわからなかったし。



「あ、月見里君……やだっもうどうしてこんな時に。」



 驚いて、今は会いたくなかった、という感じはしないんだけど。



 別に休日に学校指定のジャージで出歩いてるとか、だらしない恰好をしているとか、そういうわけではないのに。



「恰好は別におかしくないし、アニメショップから出てきたのも別に変な事じゃないよ。」



「あ、いや。問題はその中身であって……って何を白状させてるのっ。いくら月見里君でも私の中身は見せても購入物の中身は内緒だよっ。」



 いやいや、四月一日さんの中身もおいそれと見せちゃだめでしょう。



 ってそれよりもヤバイブツが?



 俺もヲタクのはしくれだ。想像するにBLとか百合とかいった普通のジャンルではないという事か。



「まぁ、わざわざ見たり覗こうとしたりはしないよ。」



「覗かないのッ?」



 いや、なんでそこで胸とスカートを押さえるんだよ。



 残念がってるのは自分の身体を覗かないと思ってるのかよ。



「せっかくだし、時間も時間だからお昼ごはん一緒にどう?」



 いきなり四月一日さんから昼食のお誘いだ。確かに昼はまだだけど。



「やっぱりラーメンといったらとんこつだよね。超こってりしたとんこつよね。関東ではこういうのを臭いとか言うけれど、本場のとんこつってこうどろっとしていて、こういうニオイがするものよ。」



「確かにこってりと言えば久留米だし、さっぱりといえば博多だとは俺も思うよ。でも男女で初めての外食がラーメンで良いの?」



「そこはパスタとか言って気取ってもしかたないかなって。大体パスタって広義的な意味だから、大抵はスパゲッティなのにパスタとか言って何を気取ってるのさって話で。」



「ペンネとかゴルゴンゾーラだってパスタじゃんって。そうは思わない?」



「まぁ確かに。いつの事からかスパゲッティと言わずにパスタって言うようになってたよな、特に女子は。」



 パスタ理論は分かる気がする。



 恐らくはイタリアンが流行して、若手イケメン料理人が色々流行らせて、なんとなく女性客を増やして、イケてる女子はパスタって言うような風潮を生みだしたんだ。


 

 両親世代はスパゲッティと呼んでいた。



 実際はホットケーキとパンケーキは別物だけど、やたらパンケーキ言うのも同じようなものだよな。



 

「とりあえず、四月一日さんが俺の前ではカマトトぶらない人だというのは分かった。」



「それって褒めてないよね。」



「裏表があって、影でこそこそ言われるよりは良いと思ってる。」



 自分ではわからなかったが、その言葉を言った時の俺の表情は沈んでいたようだ。


 

 どことなく、四月一日さんの表情が困惑していたから、少し時間が経過してからそう思い至った。



 裏表……ちょっとあの時の事が思い浮かんで、どことなくそれが表情に出てしまっていたのだろうな。



 少なくとも四月一日さんには関係がない事なのに。



「そんなわけで、四月一日さんらしいなと。」



 ちょうどラーメンが運ばれてくる。



 うん、これはどこってりしていそうだな。


 

 溶けた骨でも入ってそうだ。



「女子は美容のためにとか言って、ラーメンは食べても塩ラーメンか野菜たっぷりラーメンな印象だからさ。」




「意外だった?でもちゃんと食後の運動はするよ?ぷくぷくしたりニキビたっぷりじゃ見て貰えないからね。」



「誰に。」



「月見里君に。」



「お、おう……」


 

 これまでの俺だったら、なんでやねんとか、アホかとか返してたはずなのに。



 童貞少年のような返ししか出来なかった。


 

 ラーメンを箸で挟んでにこやかに笑いながら言う月見里さんが、何故か妙に輝いて見えた……とは言えない。



 俺のキュンポイントがわからない。

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