第21話 一緒に登校

「まぁ、膝は強打すると数日は痛いしな。」



 実際に強打するとわかるが、当日や翌日は歩行がきつい。



 特に階段なんてきついのだ。



 痛くて引きずったりしてしまうものだ。




「制服はスカートだからそうでもないけど、パジャマ着てる時とかは膝が擦れたり圧迫されたりで、それなりに痛かった。今は階段以外はそうでもないけど。でもありがと、気にしてくれて。」



「作りかけの模型とかやりかけのパズルとか、そのままにしておくと気になるじゃん。」



「例えはともかく、そういうの分かるよ。小説とか漫画とかゲームでも同じ事言えるし。」



「クラスの奴らは委員長のこんな現実知りもしないんだよなぁ。」



「学校ではゲームとか漫画の話はほぼしないしね。漫研に入った事で少しは漏れてるかも知れないけど。」



「段々隠す気なくしてないか?」



「イメージするのは自由だしね。」



 確かに直接話しかけられてなければ、俺も外野の一人として優等生の委員長というイメージしか抱いてなかったろうな。



 

「鞄、持つよ。」



「ってどうした?鳩が豆鉄砲喰らったような顔して。」



 俺が言うのも何だが、面白い顔してるぞ四月一日さん。



「あ、いや。だって。」



「まだ痛むんだろ?鞄持ちながら登校したら段差で……」



 半ば強引に四月一日さんから鞄を奪う。



 そのまま肩にかけた。反対側には自分の鞄が掛けられている。



「それなら肩を貸して欲しい。」



「いや、それは売約済だ。俺の鞄と四月一日さんの鞄で。」



「その鞄、キャンセルで。私を予約し直して。」



「それがキャンセル不可なんだよ。契約書見なかった?」



 なんてやりとりをしてると、四月一日さんが「プッ」と笑いだす。



 何か面白い事でもあっただろうか。



「なんかちょっと距離縮まった?今朝の月見里君の口調が、マブダチの男子と会話してるようなものになってる。」



「そうか?特に何かを変えたという意識はないんだけど。」



 確かに思い返すと、妹と会話してるような口調だったかもしれない。


 

 四月一日さんとのやり取りそのものも。



 失うものがないというか、振り切ったというか、四月一日さんの家族と面を合わせた事、妹にある程度話した事で何か変わったのかもしれない。



 妹はまだ思うところがあるのか、特に根掘り葉掘り聞いてくるとか、何かに頑張れとかそういったモノはなかったけど。







「お、夫婦で登校かー。」



「仲良き事で。」



「やっと素直になったかー。」



「がっちり何かをホールドしたの?具体的には胃袋とかあっちの方とか。」



 ヲイ、そこの女生徒。あっちとはなんぞや。



 お前ら俺が体育祭の日、四月一日さんを送ったの知ってるだろうが。



 それでまだ足を気にして一緒に登校したとか考えられないのか!



「まぁ、普通は気になるよな。女子だから余計に。気遣いだって事は俺にはわかってるよ。」


 

 ヲイ、松井。お前そんなさわやかな事言う奴だったか?



 


 そしてなんか知らんが、その日も俺は四月一日さんを自宅まで送る事になった。



 教師公認でクラスメイト公認で。



 どうなってるんだ、四月一日さんを取り巻く情勢って。



「月見里。鈍いのは二次元だけで良いんだぞ。」



 副担任の遠山先生に背後から囁かれた。いや、怖いって。



 流石松井を矯正した遠山先生。松井キラーは伊達ではないって事か。


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