第20話 妹の愛が重い、そしてお迎えにあがりました。

「なぁ、知ってて作ったよな。」



 妹が作った晩御飯を全部平らげて、食後のお茶をすすりながら妹に向かって言った。


 

 一応般若からいつもの可愛い妹の姿に戻っているため、俺はきょどったり怯えたりはしていない。



 いや、別に妹が怖いとかやべぇやつとかは普段から思っているわけじゃない。



 ブラコン妹の俺への良くわからん愛が重いんだ。



 まぁこれも過去にあんな事がなければ、こうはならなかったんじゃないかとは思ってるけど。



「お兄ちゃんは私が守る。お兄ちゃんは私が養う。」



 って当時小学生の妹が言うとは思わないし、未だにそれを実行しようとしているなんて、普通の兄妹の家庭では思わないだろう。



 大抵の兄妹は、「お兄ちゃん臭い。」とか、「お兄ちゃんあっち行って。」とか、「お兄ちゃんの入った後のお風呂は嫌。とか先に私を入らせてお湯を飲む気でしょう。」とか、一部父親離れする時の娘のセリフも混じってたけど、そういうもんだと思う。



 まぁキモイとか言われたらお兄ちゃんショックだけどさ。



 後さ、たまに妹の部屋から変な声が聞こえるんだよ。



 自慰とか喘ぎ声とかそういう艶めかしいものとは違ぇ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わってるぜ。



 とにかく妹からの愛が重い。



 そりゃ敬遠されるのは嫌だし寂しいものはあるし、疎遠とかよりはいいのかもしれないけど。



 妹よ、日本では兄妹や姉弟は結婚出来ないんだぜ?




 尤も、きょうだいとして妹の事は好きだが、LOVEではない。


 

 可愛いとは思っても、えっちしたいとか一緒に風呂入ってきゃっきゃうふふしたいとかいうのは全くない。



 将来連れてきた彼氏に向かって、「交際したければ、結婚したければ俺を倒してからにしろ!」とかは言ってみたいと思ってるけど。



 まぁ、とにかく過去の俺が超落ち込んだあの件がなければ、ここまでブラコンにならなかったんだろうなとは思ってる。



 当事者の雅は……なんとも思ってないんだろうな、多分。



 

「そういえばお兄ちゃん、なんかメスの匂いがする。御馳走になったのは女子の家?」



 さっきまで箸を握っていた右手の指の匂いを嗅いでくるマイ妹。



 音読みしたら「マイマイ」だな。



「足を怪我した委員長をおぶったからな。」



「ふぅん。それでメスのニオイが。」



 どんな匂いが付着するってんだよ。


 

 第一俺は四月一日家で手を洗ってからご飯食べたぞ。なんなら我が家で妹の晩御飯を食べる前にもだ。



 もっと言えば、学校でも手は洗ってるし……



「そういう次元の話ではないのだよ、お兄ちゃん。」



 心の声でも呼んだのか?



「いや、普通に声に出てたよ。手は洗ったんだけどなとか。」



「それでさっきの質問の答えだけど……知ってて作ってたというよりは、本来お兄ちゃんが帰ってくるだろうなという時間に合わせて作り始めてたんだよ。」



「途中でやめるわけにもいかないし、作っておけば明日の朝ごはんでも良かったんだけど、何故かお兄ちゃんてば完食しちゃうし。」




「せっかく作ったのに温かいうちに食べないと失礼だし、帰宅した時のお前がなんか般若に見えたし、食べないといけないオーラとかシチュエーションが出来上がってたから。」




「言い方はともかく、ありがと。でも本当にお腹きつかったら朝に回して良かったんだよ?」



 そうは言うけど、あの圧を感じたら食べないわけにはいかない。



 アナゴさんと飲んで帰ったマスオさんが、家に帰ったら仁王立ちのサザエさんが出迎えていたようなものだ。



 わかるだろ?



「そういえばお父さん達、今日は日付変わるくらいに帰ってくるって。」



「じゃぁ洗い物は俺がやっておくから、先に風呂入っちゃえよ。」



「妹汁堪能する?」



「しないよ。」



「残念。」



 何を残念がっているのか。



 俺は二人分の食器を洗う。



 洗い終わった後は暇なので、携帯アプリでちょっと遊んで、ネット小説を読んで……



 かれこれ1時間は経過してるんだが、一向に妹が風呂からあがってこない。



 女子は風呂が長いとは言っても、ちょっと長くない?




 やがて風呂から上がって来た妹と入れ替わりで俺も風呂へ入る。



 他の家庭は知らんが、うちは誰も気にせず洗濯機に洗い物は一斉に入れる。



 兄だとか妹だとか、そういうのは関係ない。



 まぁ、恋人じゃないしな、家族だしな。変な感情とか邪な感情とかはお互いにない……はずだ。




「それで?お兄ちゃん。妹汁は堪能した?」



 どういう事だよ。ダシでも出てたのかよ。



「わかんないならいい。」



 それこそどういう事だよ。マジで何かあったのか?聞くのも怖いけど。



「それじゃおやすみ。」



「あぁおやすみ。」 



 妹は先に自分の部屋へ戻って行った。



 俺はもう少しネット小説でも読んで、0時でログインボーナスが切り替わるアプリをログインだけして。


 

 両親が帰ってくる前には自室に戻った。





「もう休みも終わったな。」



 体育祭の翌日はだらだらして過ごした。


 

 筋肉痛とは言わなくとも、それなりに身体は疲れていたんだろうな。



 そういや、学年が違うとはいえ、ほとんど同じような状況だった妹は元気だな。



 1歳しか変わらないのに、元気なやつだ。



 とりあえず登校するか。駄々こねても変わらない。



 あの妹もなぜか登校の時は一緒に行こうとは言わない。



 何故も何も、部活で早めに家を出るからなんだけど。



 いつもとは違う通学路を通り、ある家の前でインターホンを押した。



 ピンポーンってのもありきたりな呼び鈴だな。



 って俺はマジで何をしてるんだ。



「あ、本当に来てくれたんだ。」



 やっぱり足の具合が気になって、俺は四月一日さんの家に来ていた。



 一昨日見たあの普段着ではなく、いつも通りの学校の制服に身を包んだ四月一日さん。



 ちょっとだけ艶やかに見えない事もない。

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