第18話 食後・夕闇・般若
「ごちそうさまでした。」
あれだけのメニューを良く完食出来たと思う。
というか、全員が。
途中会話を交えながらだったので、お腹が休んで食べきれないと思っていたのに。
主に、委員会の話や今日の体育祭の話、クラスではどの程度話しているのか等だった。
昨年の林間学校の話や、1年生時の思い出した四月一日さんとの事はほとんど話題に上がらなかった。
全てを思い出してるわけでもないし、振られても困るというのが現実だけど。
別に記憶喪失とか記憶障害とかそういうわけではない。
四月一日さんには申し訳ないけど、特に意識をしている異性や事件でもなければ、早々何でも思い出せるわけがないんだよ。
グイグイくる四月一日さんに、煮えくり返らない対応を取ってしまうのはそういう面もあるんだ。
今であれば、それなりに意識していたりしないわけではなから、今日の出来事は来年になっても覚えてるだろうけど。
尤も、四月一日さんに限った話ではなく、昨年の俺は誰か好きな相手とか気になった相手というのがいないため、体育祭とか文化祭のような出来事でもなければ、何でもかんでも覚えてるわけではない。
他の人だってそうだと思う。
例え異性との事であっても、全ての会話た出来事を覚えてはいないだろう。
確かにずっと隣の席だったなぁという認識はあったし、委員長やったりで他の女生徒よりは記憶に残ってはいたけれど。
玄関までは四月一日さんが見送ってくれた。
明日は一日休養日という事で学校は休みだ。
大道具系は体育祭実行委員が既に片付けている。
グラウンドにテントなどはもうないのだ。
「今日はありがとう。本当はちょっと痛かった。」
「まぁ、明日一日ゆっくりして養生しな。明後日からまた学校だし。」
怪我の具合は俺にはわからないけど、歩くのが困難とかなってたらそれは大変だ。
変な歩き方をしてたら、ついに何かヤリやがったなとクラスの連中が言い出すに決まっている。
それこそ既成事実に使われてしまう。
いや、別に嫌なわけではない。
客観的に見て四月一日さんは可愛い。
ゲーム脳さえ表に出さなければ、普通に優等生委員長だ。実際成績は良いんだけどさ。
普通に付き合えば、高嶺の花ゲットとかいうやつで間違いない。
俺もヲタクではあるんだが、四月一日さんのソレは何か違う。
現実に返った時、俺みたいなモブ、相手にされないんじゃないかという不安が拭えない。
友人曰く、俺の容姿は悪くない。
鏡に映る自分の姿も、普通よりは良いのかな?程度には思ってる。
だがしかし、自他ともに認めるイケメンというやつには程遠い。
普段着はおしゃれじゃないし、かといってどっぷりヲタクというわけでもない。
いっそキャラTシャツを普段から着てるようなヲタクであれば、四月一日さんのアプローチにきちんと答えられるのかも知れない。
本当に俺は四月一日さんをどう思っているのだろうか。
幼馴染を除き、特段付き合いのある、友人のような仲間みたいな友人はいない。
俺の中の身近な異性は、四月一日さんと幼馴染である雅が上位で、クラスメイトが数人程度が中位ってくらい。
学校帰りにゲーセン行ったり、カラオケ行ったり、ファミレス行ったり……そういうのはほぼないな。
「気になるなら明後日。迎えに来てくれても良いんだよ?」
それに対する返事は俺には持ち合わせてはいない。
わかった、迎えに行くよ。
バーカ、流石にもう治ってるだろ。甘えるなよ。
どちらの選択肢も俺にはなかった。
選択出来ないではない、選択肢が存在しないんだ。
「おやすみ。」
彼氏でもない俺がそこまで出しゃばるわけにはいかない。
仲の良いクラスメイト、同じ委員長、それ以上でもそれ以下でもない。
勘違いしたり先走ったり勝手な思い込みで辛い想いをするのは、もうこりごりなのだ。
四月一日さんのこれまでの言動が一過性のものではないとも限らない。
ふとした時に豹変しないとも限らない。
傷付くくらいなら、傷が付く要因となるものを持たなければいい。
だから俺の選択肢は「おやすみ。」一言しかなかった。
それから俺は帰路へつき、暗くなった空を視界に捉えながら歩いていく。
夕ご飯をごちそうになる前に、家……妹には遅くなる旨と夕飯はいらないという連絡は送っていた。
両親はともかく、自宅には今独りで妹がいる……はず。
思春期を抱えた難しい年頃の妹が。
自宅の玄関を開けると、何故か般若が待ち受けていた。
「お兄ちゃん遅い。」
それから俺は、妹が作った晩御飯も食べた。
いや、俺遅くなるって連絡送ったよね?
夕飯はごちそうになるから俺の分は要らないって送ったよね?
ちゃんと既読が付いて、その後「わかった。」という返事送ってたよね?
分かった。でも作らないとは言っていないってやつか?
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