第16話 四月一日家

「あらおかえりなさい。」



 突然玄関の扉が開いたので、俺はビックリした。



 四月一日さんを少し大人びたような女性が、家の中から出てきたのだからびっくりもする。



 お姉さん?お母さん?どっちだろうか。



 最近では見た目はお姉さんにしか見えない母親も多いし。



 流石にこれでお父さんだったら引く。どこのラノベだよって話だ。



 お兄さんならない事もないかも知れないけれど。男の娘は結構需要あるし。



 などと考えていたら、母ですと名乗られた。



 推定35歳。いや、それだと高校生の頃に産んだことになるな。


 

 でも40にはなってないだろう。ほら、女性に年齢を聞くのは云々ってあるけど、想像するのは自由だ。



 

「せっかくだし、ごはんでもどう?娘を連れてきてくれたお礼って事で。」



 ぐいぐい来るな、四月一日さんの性格は母親譲りなのだろうか。



 確かにうちの両親は夜はまばらで、普通の家庭のような家族揃っての夕飯は毎日ではない。



 毎日ではないんだけど……なんで四月一日さんの親が、うちの事情を知っている体で話をしてるんだろうか。



「半ば強引に連れ……娘を送ってくれてありがとうね。」


 

 あ、これ。色々俺の事知られてるパターンだ。


 

「ク、クラスメイトですし。同じ委員長ですし。」



 そうやって濁すので精一杯だった。


 

 母親の微妙な笑みが全てを知っていると言っているようで、言葉も考えるゆとりも無くなっていたからだ。




「なんだ。これは一番凄い外堀を埋められていたというやつか。」




「両親は旧作やってるからね。」


 

 何を!?と思ったが、あのゲームの事か。



 確かに例のあのゲームの一作目は、20年近く前に発売されたものだ。



 四月一日さんがプレイしたのは恐らく、ボイスやムービーが追加されたリメイク版。



 旧作時代が両親の中高校生時代というのは考えられる話だ。




 結局、様々な圧に負けて俺は四月一日家で夕ご飯をごちそうになっている。



 普段着に着替えた四月一日さんを見るのは何度目か。



 1年の時の林間学校以来……だとは思うが。



 今にして思えばその林間学校でも色々あったな。



 尤も、今回想する必要はないけど。



 この瞬間に至るまでにも色々あった。




「ねぇねぇ。穂寿美とはどういう関係?どんな感じで仲良くなって、今ドコまでイってるの?」



 斜め前正面の席から話しているのは、四月一日さんの姉だ。


 

 着替えてくるという四月一日さんは2階の自室へ行ってしまったため、先に席に案内された。



 テーブルには既にいくつかの料理が並べられており、四月一日さんが帰宅して着替えたらちょうど家族で晩御飯、という感じが整っていたのである。



「あの子、肝心な事は話してくれてないからね。クラスで一番仲の良い男子という事と、端から見てどう考えてもホの字だよねって事くらいしか。」



「そういうのは、本人がいない前で言ってはいけないんじゃ……」



 実際、告白に似たような事は何度も言われてるけど。



 しかし世の中にはセフレのようなものもあるわけで、子供が欲しいイコールあなたと結婚したいのようには結びつかない場合もある。


 

 とはいえ、好きという単語を聞いたわけではなくとも、それに近い感情が向けられているような気がするのは気のせいでもないくらいの自惚れもある。


 

 だからこそ、簡単に返事も出来ず華麗にスルーするように努めているんだけど。



 それを口に出せないのは、単純に俺がヘタレとか他に好きなやつがいるのでは?という流し方になっている所以でもある。

 


「家族全員共通認識だから、少なくともうちの中では問題ないよ。それで、妹とはどうなの?この先どうしちゃうの?私より先に二世……」



 その言葉を最後まで言い切る前に、母親がオタマで頭を木魚でも叩くかのようにポクポクと叩いた。



「そういうのは本人達の問題なんだから詮索はしないの。中高生は色々あるんだから。ねぇ?」



 四月一日さんに似た二人から目を向けられると、なんだか妙な気分になってくる。



 ここで本人まで現れたら、団子三姉妹ならぬ四月一日三姉妹……正確には親娘だけど。




「俺、ただの空気じゃない?普通こういうのは父親が何か言うところじゃないかな。どう思う?月見里君。」



 知らんがな。


 

 初めて面と向かって話すはずなのに、四月一日さんの父親に対して心の中で素直にツッコミを入れていた。 


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