第14話 リレーと保健室
「がんばれー!」
「そこだー!まくれー!」
「上がり3ハロン!末脚炸裂させろー!」
グラウンドは1周約400m。3ハロンは600m、つまり矛盾しているだろう。
どこの応援だよ、全く。ってうちのクラスかよっ。
あのトリ頭めっ。
藤田は全体3位でいけてる、このままバトンをを繋げれば最終的にいいとこまでいけるはず。
おっ、四月一日さんに2位でバトンが渡った。
藤田、結構良い仕事する……ヲイ。そのバトンを渡す時のイヤらしい笑みはなんだ。
お前、バトンに何を仕込んだ、何を妄想させた。
ってそれは考えすぎか。
って、あっ。四月一日さんがこけた。大丈夫だろうか。
「がんばれー」
「ファイトぉっ」
「無理はしないでぇっ。」
痛そうに引きずる足で懸命にゴールを目指そうと必死だ。
綺麗で可愛い普段の四月一日さんが、苦しそうに必死にあがく表情と姿に、グラウンド全体が声援を送っていた。
四月一日さんが転んだのは最後の直線に入る寸前。残りの距離にすれば100mあるかどうか。
全体から見れば、4分の1程度。確かに気合と根性で乗り切れない距離ではない。
それでも、ぶつけどころによっては大事になりかねない。
だから俺も思わず……
「四月一日さんっ、あと少しだっ。」
懸命に走り切ろうとする四月一日さんの姿に感銘を受けずにはいられなかった。
って、なんでそこでスピードがアップする。
バトンを繋げるだけで充分なんだってば。
「私の
一緒に走っている生徒と一部観客には聞こえてるだろうな、四月一日さんの今の言葉。
一瞬何人かの走ってる人達が振り返ったりしてるし。
そのおかげか、四月一日さんとの距離がドンドンと縮まってきていた。
火事場のバカ力?
いいや、そんなチャチなもんじゃねぇ。何かもっと恐ろしいものの片鱗をひしひしと感じるぜ。
殆どの生徒には見えてないと思うが、四月一日さんの形相と背後に何かが見える……気がする。
「月見里君っ、私の●をお願いっ」
「バトンだよねぇ?バトンの事だよねぇ!?」
バトンを受け渡す一瞬の間に何を言い合っているのか。
一人抜いてブービーでバトンを受け取った俺は、後続の運動部二人に託すため、やれるだけの事はやろう。
得意ではないが、苦手でもないんだ。
やるからには一等賞を目指すのは競技者であれば当然。
「嫁さんが心配だから、早く戻りたいんだよ。」
「まだ付き合ってすらいねー!」
俺はつい誰かのツッコミに返していた。
「まだって事は、これからって事かー」
違う誰かがツッコミというヤジを飛ばしてる。後で覚えとけよ。
でもなんでだ。変なヤジのせいか俺のスピードがアップしてる。
異世界ものでいうところのバフみたいなもんなのか。
最後のコーナーでインコースを走る生徒を抜くと、後は直線だけだった。
前に後4人いるけど、8人で走ってる事を考えれば上出来。
四月一日さんが7位で、俺が5位でバトンを渡せれば残りの二人で3位入賞くらいは見えてくる。
頑張れば後少しでもう一人……ってそれは贅沢か。少しでも縮められれば。
「五月一日さんっ。」
「あとは任せてっ。」
俺がバトンを渡すとロケットスタートばりに加速した五月一日さんが駆け出して行った。
何だかんだで五月一日さんと池田のおかげで、結果的に2位まで上り詰めた。
やっぱり陸上部の次世代エースはパネェ。
俺は保健室で最終的な結果を聞いた。
なんで保健室で聞いたかって?
走り終わった俺は、何故かまだグラウンドに残っていた四月一日さんを保健室に運んでいったんだ。
お姫様抱っこでとぐずる四月一日さんだったけれど、周りのヤジで最初は流れに押されてやろうとしたけど。
結局は背中におぶる事で四月一日さんを保健室へ運んだ。
いや、その前に救護テントじゃないの?という自問自答を奥に追いやって。
「当たって……」
「当ててるんだよ。というより、背中におぶれば嫌でもあたると思うよ。」
あまりふくよかではない、それの重みと感触の事などどこかへ行ったのを覚えている。
打撲と擦り傷で済んだのは幸いだが、暫くは安静という事だった。
というか、汗とか汚れは気にしないんだな。
「あなた達のクラス、最終的に2位みたいよ。」
保健の先生が順位を教えてくれたのだった。
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