第13話 好きだけど。

「あれは勝手に雅がやった事で……」


 なぜ俺は弁明してるんだ?


「ふぅん。それで?」

 

「いや、だから……」


「幼馴染とか一番長い異性の友人って括りで、腕組みする必要があると?腕とはいえくんずほぐれつする必要があると?」


「ない。ないけど、あいつが勝手にやった事で。」


「振りほどく事も出来たと思うけれど?」


 いやだから付き合ってる男女でもないのに、なんで俺はこんな詰め寄られて言い訳を考えなければならないんだ。


 理不尽だ。


「ごめんね。私達付き合いが長いから男女のそれに疎くてさ。つい親友のノリで他人からみたら過剰なスキンシップをしちゃうんだよね。」


 雅が助け舟に来てくれたのは良いんだけど、それって火に油じゃ……


「掛布さん……今日から貴女は敵。ライバルよっ。むきーっ」


「いぃ、痛いッ。痛いって四月一日さん。」


 それと、ちょっと良い匂いが……ウメボシを喰らってるんだが、眼前には白く揺れる体操服が。


 揺れる体操服に合わせて、なんかいい香りが……制汗スプレーの匂いだけどさ。


 周りからの「夫婦漫才はよそでやれー」とかヤジが聞こえるのは聞き流そう。



「順番逆だったら、月見里君の秘密の棒バトンを受けられたのに。熱い血潮と一緒に。」


「なぁ四月一日さん。遠回しな下ネタはやめようぜ。誰が聞いてるかわからいんだし。それに、委員長イメージが崩れるよ。」


 俺は親切心で言った心算だ。


 誰だって人には良く見られたいと思うはずだ。


 四月一日さんの委員長イメージは、俺と一部以外を除き完璧委員長然としているはずだ。


 こんな下ネタを言ったり、さっきみたいな大魔神怒るみたいな表情をする女子だとは思われてはいないはずだ。


 だって、秘密の棒って俺の……の事だろうし、熱い血潮ってそこから出る白いアレの事だろうし。


「えっちな女の子は……嫌い?」


 なんでそこで急に真顔になって、しかもちょっと寂しそうな表情をするのさ。


 えっちな女の子は嫌いかと聞かれて嫌いと答える男は1割いるかどうかだろ。


 ましてや思春期の中学生高校生なら猶更さ。


 大学生まで行くときっと据え膳喰わぬは~って感じなんだろうけども。


 勝手な大学生イメージだけどな。ヤリサーとかオタサーの姫なんてのも都市伝説ではないと思ってるし。


「好きか嫌いかの二択ならば、好きだけど。」


「しゅきっ。」


 なんで両手を組んで恍惚の表情で後ろに倒れそうになるんだよ。


「別に四月一日さんの事を好きと言ったわけではないんだけど。」



【好きだけど。】



 何故先程の俺の音声が再生されてんだよ。いつ録音したんだよ。



「これだけで私、ごはん三杯はいける。」



「俺はオカズか!」


「え?オカズに使って良いの?」


「だめだよ。ってか何言ってんの。」


 その言葉を真に受けるならば、その……ひとりえっちに俺のボイスを使うって言ってるようにしか聞こえないんだけど?


「月見里君は一体なにを想像したのかな?」


「別に。」


「あ、そろそろリレーが始まるよ。一緒に行きましょ。」


 こういうやり取りをしているものだから、他の競技を見たり応援したりとか全然出来てないじゃん。



 結局、リレーの集まりにも一緒に、横に並んで隣接しながら向かう事になった。



 一人一周だから、スタート地点が違うという事はない。



 同じ場所に向かうのは当然だった。



 おかしいな、さっきは雅にドナドナされていったけど、今度は四月一日さんにドナドナされていったよ。

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