第11話 体育祭

「いっちろー、いっちろー、いっちろー♪」


 いっちにーいっちにー♪ではありきたりだからと、四月一日さんの一喝で掛け声がこうなった。


 負けたら付き合うとかいう良くわからない約束をさせられた。


 普通勝ったら何かするとかいう条件ではないかと思うんだが。


 やる気なく負けるのが嫌らしい。


 いや、そりゃやるからには手は抜かないけど。


 というか、俺達の対戦相手。


 カップル2組と運動部ペア2組だぜ。


 前者は二人の相性とか息がぴったりとか、ペアとして侮る事は出来ない。


 後者は言わずもがな、運動部という事もあり、前者のペアとして云々がないとしても個のポテンシャルが一枚も二枚も上手。


 勝てる気がしない。


 それなのに……



「いっとうしょうー♪」


 何故か勝ってしまった。


 カップル2組。あれは……実際は噛ませ犬だ。


 確かに仲は良いのだろう、しかし運動能力、こと二人三脚に至っては全く嚙み合っていなかった。


 カップルには悪いが、いつか何かの不一致で別れるだろう。


 そして問題の運動部、確かに個の能力は高い。


 しかし、微妙に噛み合わないのか、力を発揮出来ていないようだった。


 そうだとしても何故俺達は勝ったのか。



 負けた時の条件は付き合うだった。


 勝った時の条件は特にない、現状維持といっても過言ではない。


 しかし、無理のない範囲での何か言う事を聞くというものがあった。


 アイスを奢るとか、学食を奢るとか、その程度のものだけど。




「借り物競争でも1着だったら、同じ条件をもう一個お願い。その代わり負けた時の云々はなしで良いから。」


 仕方ないので、その条件を呑む事にした。俺に何の利点もないのだけれど、クラスメイト達からの視線が痛いんだ。


 周囲の誰かからは、なんで付き合ってあげないんだよとか言い出す始末。


 もう外堀が埋まり過ぎて、本丸まで障害なしじゃねぇか。


 しかし、両手を合わせてお願いポーズは、確かに可愛かった。


 これが所謂イベントスチルってやつか。



「あ、月見里君。一緒に良い?」


 借り物競争で、何故か俺を連れて行こうとする。


 怖いので、何が書かれてたんだ?と聞くけど答えてはくれない。


 断るとクラスメイト達から刺されそうなので、とりあえず承諾する事に。




「いっちゃーく♪」


 その表情だけを見れば普通に可愛いんだがな。



「確認させていただきますね。」


 四月一日さんは係の生徒に紙を渡した。


「本当に?本気です?」


「本当です。本気と書いてマジというやつです。」



「あの、一応俺にも確認させてもらっても良いですか?」


 係の生徒が持つ紙を、俺は見せて貰う。



【一緒の墓に入りたい相手】



 重い……想いが重い……


 というか、問題に対する正解が本人以外に確認しようもないやつじゃん。


 これ、好きな人とかいない人はどうするんだろ。


「一体だれがこんなの入れたんですかね。」


 係の生徒も困っているようだった。


 一応体育祭実行部の判が押されているので、実行委員長の合格は得ているという事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る