第2話 回想してみる
「私、四月一日穂寿美。よろしくね。」
入学して初めての登校日。つまりは入学式がある。
クラスメイト達とは、制服合わせの日に大方の人とは面識がある。
あくまで面識があるだけで、顔と名前が一致するのは半分に満たないけれど。
しかしこの四月一日さんは見覚えがあった。
昨今小学生でも髪を染める人が多い中、四月一日さんの黒髪は見事に映えて見えたからだった。
こういう人は委員長タイプなんだろうなと思った記憶があった。
凛とした姿勢や態度がそれを物語っていたと思う。
「あ、俺は
真宵という名前のキャラがいた漫画を思い出して、妙な言い訳をしてしまった。
時代は変わったとはいえ、あからさまなヲタクオーラを出すとクラスでの立ち位置が低くなるからな。
俺は中堅が一番だと思ってる。
目立たず目立ち過ぎず、かと言って空気にはなり過ぎず。
どこで誰が聞いてるか分からないから、最初からいきなり自分の趣味や性癖等を晒すわけにはいかないのだ。
「それじゃぁ月見里君、よろしく。」
最初の挨拶としてはお互いに差し当たりない挨拶だったと思う。
「という感じの出会いだったと思うけど。」
軽く最初の邂逅の時の事を四月一日さんに説明する。
「そりゃ、最初はそうでしょうよ。ほら、思い出すところはそこじゃないでしょ。回想アゲイン!」
徐々に前のめりになってくるので、四月一日さんの身体が物凄く近くなってきている。
クラス替えはないため、メンバーに変化はないものの、特定のクラスメイトが接近すればそれは話題の一つとなってしまう。
近い近いと思いながらも、仕方なく他の事を思い出そうとする。
「まずは、そうね……」
「教科書忘れた?委員長っぽいのにお茶目な一面もあるんだね。」
教科書を忘れてしまったからか、妙にモジモジしていた四月一日さんの姿にいち早く察した俺は、教科書をすっと差し出した。
正確には先生に言って、席をくっつけて、二人で一つの教科書を見るというものだったけど。
そんな事がお互いに何度かあった。自分が忘れて気付いたけれど、前の日に勉強するとそのまま鞄に入れるのを忘れてしまう事がある。
そういえば、委員長っぽいと言ったけど、実際四月一日さんは委員長をやっている。
誰も立候補者がいないなら、過去にやった事ある人って事で、同じ中学出身の女子からの推薦で選ばれた。
そして、隣の席だからととばっちりを受ける形で俺は副委員長になったんだった。
「こんな事くらいクラスメイト、隣の席なら当たり前だと思うけど。」
「ちっがーう。確かに好感度上昇のとっかかりとしては、そういう些細な事も含まれるかもしれないけど。」
どうやら違うらしい。それに最初の話では何度も好感度爆上がりの機会があったと言っていたっけ。
それなら一体何なんだ?何度もそういう機会があったなら、どれか一つ二つ思い出しても良いんだけどな。
「もう、まずは体育の日を思い出してみて。ほら、月見里君が私に何をしてくれたか。」
本当に助かったんだから……と小さな声で言っているのを聞き逃さなかったけど、一体何かあったっけ?
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