恋の始まり
僕はティアを連れてクイーンの許可のもと、洞窟の奥へと足輪伸ばしていた。
そもそもの目的はこちらにあると言って過言ではない。
人型になったティアは僕の肩の上に座って上機嫌のようだ。
「アンリ、これから、どこ、行く?」
「もうすぐ着くよ」
「アンリ♪」
ティアが僕の頭に寄りかかって来る。とってもスベスベしていて柔らかい。
洞窟の奥が少し明るんで来ている。何かが光って洞窟全体をぼんやりとその輪郭を浮き上がらせている。
歩みを進めるとすぐにその正体がわかる。
妖精だ。
先程までいたノームもどちらかと言うと妖精に近い存在ではあるが、見た目こんなに妖精感はない。
と言うのは、淡く光を帯びてふわふわと蝶のように飛んでいるのだ。ノームはどちらかと言えば見た目は人間に近い。クイーンは肌が透き通ってみえるので、若干妖精っぽいと言えようか。
妖精の光の色はその魔力の性質に作用されるようで、実にカラフルだ。遠くから見ると虹色の桃源郷にでも迷い込んだように幻想的である。
「ティア、ここが妖精の泉だ」
「ヨウセイの、イズミ?」
そこには開けた空間があり、豊かに水を湛える泉がある。その水面近くをヒラヒラと妖精が飛び交い、光の粉が降り注いでいる。泉の底にそれが溜まっているのか、仄かに底が光って見えるほどだ。
「そう、妖精の泉。この泉の水には不思議な力があるらしい。その効果はそれぞれ違っていて、誰にどんな効果が与えられるのかわからない。当然何も無い場合もあるらしいけどね」
「フシギな、チカラ?」
「そう、不思議な力。この力について、僕はこう考えている。その人のこう在りたいと言う願望に、泉の妖精たちがほんの少しだけ力を貸してくれるのではないか。つまり、ティア、君の何かしらの夢に力添えしてくれるかも知れない。そう考えてここへ連れて来たんだ」
「むずかしい、わからない。夢?」
「うん、夢だ。叶うと良いな?」
「アンリは?」
「僕は昔、一度飲んだんだ。それで僕は皆を守る力を貰ったんだよ。ここの妖精たちにはとても感謝している。今日はそのお礼も兼ねてここへ来た」
僕の元へ次から次へと妖精が近づいて来て、僕に触れては去ってゆく。
「ノームたちと言い、ここの妖精たちと言い、何で僕をペタペタ触ってゆくんだろう?」
「アンリ、みんな好き」
「もの珍しいだけだろう?」
「ティア、わかる。アンリのこと、みんな好き」
「そっか……? ティアはどうなんだ?」
「ティア……好き」
「え? なんだって?」
「……好き」
……あれ? まだそんなでもないのかな? ティアに好かれるように頑張って来たけど、まだまだ足りないようだ。そして僕はティアの頭を撫でて言う。
「僕はティアのこと、大好きだよ」
「……」
ティアが固まってしまった。まだあまり理解できていないのかも知れない。まあ焦ることはないだろう。これからずっと一緒なのだから。
「さあ、ティア? 泉の水を少しいただこうか?」
「うん」
ティアが泉の縁までゆくと、しゃがみ込んで両手で泉の水をそっと掬った。ふわふわとその周りを妖精が舞い、ティアにもその身を寄せるようになった。光の粒がきらきらとティアの乳白色の身体に反射する。
──こくり。
ティアが人間のように口から泉水を流し込んだ。泉水はティアの身体に広がって光の粒がふわりとティアの身体の中で舞った。
「ティア、綺麗だ……」
その声を聴いたティアが、目を丸くして自分の頬に手を当てた。なんだろうこの反応?
「ティア、キレイ?」
「ああ。綺麗だよ、ティア」
ティアの頬が赤く見えるのは気の所為だろうか。スライムが照れる? ティアについてはまだまだ窺い知れないでいる。
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