ティアの気持ち
アンリがクイーンと呼ぶ人は、私がこの世の中でたったひとつの存在だと教えてくれた。
私は独りぼっちだ。
アンリに捨てられたら終わりだ。アンリは優しいし、そんな事はしない人だと思いたいが、心がざわつく。
少しでもアンリに近付きたい。
そう思った時、眼の前にアンリと同じ人間の形をした像が見えた。
自分も人間だったら良かったのに。と、思った。
そう思った途端、自分の身体がゾワゾワと変化を始めた。そして、なんだか人間になれそうな気がした。何やら、
「
クイーンが何を言ったのかわからなかった。しかし私に向けて何か言ったのだろうと言うことだけはわかった。
「ティア!」
そうだ、アンリだけはちゃんと私を見てくれる。アンリに見られていると、私は自分の存在を実感できるのだ。アンリは人の姿になった私を見てどう思うだろう?
「アンリ?」
私は自分を見て欲しくて、両手を広げて見せた。
するとアンリは、私のワキに手を添えて抱え上げた。
「ティア、どうしたんだ?」
「アンリ、ティア、一緒」
「そうか、ティアは僕と同じ様に、人の姿に成りたいんだな?」
「ティア、アンリと一緒」
「そっか、女神様とは畏れ多いなぁ」
恐れ? 多い? まだまだ難しい言葉は解らない。
とにかくこの姿の私でも、受け入れてもらえたようだ。
アンリはクイーンと何かを話すと、丸い石を私に見せた。
「ティア……これはミルクの核だ……わかるか?」
私は
熱い。
物理的に熱いと言う意味ではない。触れることで流れて来たこの石の持つ情報だ。
この石には、アンリへ対する熱い想いがたくさん詰まっている。少し触れただけなのに、熱いと感じるほどに、その熱量は計り知れない。
アンリの大切な存在だったと言うスライム・ミルクの核を取り込んだ。
まるで他人ごと(人ではない)とは思えない情報が自分の中へと入り込み、身体に浸透し、まるで融合するかの様にミルクの情報が飽和する。
特にアンリへの感情と思われる情報量が凄い。こんなにも……。
こんなにも熱い。
嗚呼、この子、こんなにもアンリのこと好きなんだ。少し妬ける。私は負けないくらいに好きなつもりだった。だけどそれは思い上がりだ。この子はそれこそ命をかけて彼を愛し、愛し抜いたのだ。羨ましい。
アリシアと言う女性への憧れ、嫉妬、変身願望。アンリのアリシアへ対する想い。ミルクへの想い。その全ての記憶、感情が私の中に昇華されてゆく。
だけど私はアリシアでもミルクでもない、ティアだ。この記憶は情報。私はティアとしてアンリと向き合って行くのだ。
ああ、二人に負けたくない。アンリはずっと私のアンリであって欲しい。ミルクの記憶を追体験する事で得た情報だが、すぐに反映されているようだ。
憧れや嫉妬、今までに無かった感情が心を支配しようとしている。
ミルクの想いをアンリに告げると、アンリは大泣きを始めた。それほどアンリもミルクを愛していたと言うことだろう。
妬ける。
アンリが私にしがみつく。今はミルクの代わりを余儀なくされる私。しかしアンリのその空白を埋められらのは私だけ。だけど私はその空白には収まらないつもりだ。アリシアやミルクの存在を超えたい。アンリに私だけを見て欲しい。
アンリ、好き……大好き。
私はアンリに寄りかかる。温かい。ずっとこの温もりとともに在りたい。そう思った。
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