マグナ・マ・テル・クベレ

 祠ではマグナ・マ・テル・クベレと呼ばれる大地の女神が祀られている。女神は祀られているだけで、クイーンは天啓を受けるとか、そう言うわけではない。祠では精霊との対話がよりクリアに出来る。つまりより広い範囲の精霊と対話が可能なのだ。


 マグナ・マ・テル・クベレは原初の神でもあり、一糸纏わぬその姿は、息を呑むほどに美しい。女神の御前には祭壇があり、一筋の光が差し込んでいる。この光は外部からの光ではなく、精霊光と呼ばれるものらしい。


「アンリ」

「何でしょう、クイーン」

「そのスライムをこれに」


 クイーンは祭壇にティアを乗せろと言っているようだ。僕はティアをそっと持ち上げて祭壇へと乗せた。


「ふむ、ではそこで少し待て」

「宜しくお願いします」

「アンリ?」


 ティアの声が不安そうだ。それはそうか、失念した。ちゃんと話しておかないとな?


「あぁ、ティア? これから君のことを精霊たちに聴いてもらうんだ。僕はもっと君のことを知りたい。言っている言葉が解らないだろうけど、ティア?ここに、居てくれないか?」

「ティア、ここ、居る、わかった!」

「ありがとう、ティア!」


 僕はそう言うと、ティアを両手で挟んでムニムニした。


「あう、あう、アンリ〜〜!」

「あははは、ティア〜〜」


 僕はティアをポンポンとして、少し離れた。


 クイーンはニコリと笑うと、祭壇の前に立ち、両手を広げて精霊と対話を始めた。


「アン・ブロ・クラマ・キリキリ・ハラ・イタヤ・エ・クベレ。アラ・ミネス・トロイア・ユーレン・コン・スラヴァッツォ!」


 精霊の言語だろうか、聴いても何を言っているのかさっぱり解らない。僕はクイーンの返答を待つまでだ。


 他のノームたちがワチャワチャと寄ってきては僕の足にしがみついては離れてゆく。にわかにノームたちが活動的になったのは、大地の力が働いているせいだろうか。


 祭壇に降り注ぐ光がより強くティアを照射する。ティアの身体は普段、乳白色の半透明なのだが、精霊光が透過してなんとも幻想的な色合いを見せている。


 心做しかクイーンの顔が険しい。どんな情報が得られたのか、または得られなかったのか、些か不安になってきた。


 ティアには別状はない。仮にどんな情報が入ったとしても、僕はティアと一緒にいることを辞めたりしない。


 クイーンが広げていた手を下ろした。対話が終わったのだろうか。クイーンはこちらを振り向くと、僕に視線を寄越した。


「アンリ」

「はい」

「このスライムは……」

「はい」

「この世界では他に存在していない、唯一無二の個体だ。擬態するスライム、治癒系のスライムは確認されておるが、知性や感情、まして喋るスライムの情報は皆無であった。過去何千年に遡ってみても、そんな言い伝えすら無いと言う」

「唯一無二……世界でたったひとつの個体……」

「アンリ?」

「ティア……」


 僕はティアを持ち上げると、身体の前でぎゅっと抱きしめた。


「あ、アンリ〜〜!」

「ティア。僕は、君を、独りになんてしない! ずっと一緒だ!」

「アンリ、ずっと一緒!ティア、嬉しい!」


 僕も嬉しい。ティアが淋しくないように、これからもずっと一緒に居よう、そう決心した。


「アンリ」

「はい、クイーン」

「力及ばずであった、申し訳ない」

「いえ、十分な情報です。この子が世界でたった一つの、僕の大切な存在なんだと教えてくれました」

「……そのスライム、よもや魅了のスキルを持っておらんだろうな? アンリがこれほど夢中になるとは……」

「あはははは!クイーン、僕はこの子にメロメロですが、魅了でもなんでもありません。普通にこの子が好きなんです」

「そうか」

「はい!」


 そんな話をクイーンと交わしていたら、他のノームが騒ぎ始めた。ノームたちが祭壇を指差して言う。


「女神様!!」







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