千年樹の洞穴

 僕は持って来た光の魔法石のカンテラで声の主を照らし出した。


 途端に周囲を取り囲んでいたものが、一斉にアンリに飛びかかった!!


「アンリ!!」

「アンリ〜〜!!」

「アンリだ──っっ!!」


 僕にに寄って集って、びっしりとしがみついた人型の小さな生き物は、ドワーフよりも更に小柄な人種、ノームだ。一説によると彼らは精霊と呼ばれるものらしいが、僕も詳しいことは知らない。

 以前、僕が騎士団に所属していた頃、このノームのくにの周辺にサラマンダーが棲み着いた事があり、それを王国騎士団が討伐したのだ。騎士団はノームたちを保護対象として、立ち入り禁止区域、即ち保護区を設けたのだ。なので、人も魔物も踏み込み難くなっている。


「ほらお前たち、霜降りマッシュルームだ!!」

「わっふーい!!」

「今夜はご馳走だ!!」

「アンリ好き──!!」

「ありがとう!!」


 僕は持って来た手提げ袋をそのままノームたちへと渡すと、キョロキョロとノームたちを見回した。すると、それを察したかのように、ノームたちは群れの奥へと視線を配る。


 奥から他の者とは明らかに風貌が違う、女性型のノームが現れた。他の者たちより背が高く、肌が異常に白い。いや、むしろ透けて見えるほどにクリアな肌だ。うっすらと光をまとった髪は長く、身につけている衣服や装飾品はとても豪華だ。


「アンリ、よく来ましたね」

「クイーン、お久しぶりです。ご無沙汰しておりますが、お元気そうでなによりです」


 僕がクイーンと読んだノームは少し微笑んだ。そして、群れの奥からアンリの方へと歩を進めると、他のノームたちは一筋の道を作った。


「アンリは息災でしたか?」

「僕は……はい、ぼちぼちやっております」

「嘘をおっしゃい。私に隠し立て出来ぬ事くらい知っておろうに?」


 彼女は、ノームクイーン。クイーンはエレメント・ノームと呼ばれるノームの中でも最上位の存在だ。ノームそのものが地の精霊と呼ばれるように、クイーンは地の精霊と対話が出来る。地続きであるならば、その情報は全てクイーンの知るところとなるのだ。


「はは、面目ない。実は一度死にかけました」

「馬鹿者が……して、今日はいつもの場所へ?」

「それもあるのですが、クイーンに紹介したい……僕の大切なこの子を」


 僕はそう言うとリュックを下ろして開けてみせた。


「僕の大切なティアです」

「ほう……白いスライムとは珍しい。して、私に見せたと言う事は、知りたいのじゃな?」

「はい。この子の事をもっと教えてください。僕はティアの為にこの子の事をもっと知らなければなりません」

「ふむ……」

「アンリ、ここは?」

「なっ!? スライムが喋っただと!?」

「ティア、ここはノームのくにだ。もしかすると、君のことがもっと解るかも知れなくて、ここに連れて来たんだ」

「ノームの、クニ?」

「信じられんな。本当にスライムなのか……いや、スライムなのであろうな。アンリ、他に何か知っておるのか?」

「はい。この子は話せるだけじゃなく、知性や感情を持ち合わせております。薬草などを主食にしていて癒やしの力も持ち合わせております。そして、おそらく擬態能力も……」

「なんと……ある意味脅威であるな。攻撃性や毒性などは無いと言うのだな?」

「無論。この子に……いえ、もう一体の白いスライムに、この命を助けてもらったのです」

「聴けば聴くほど信じ難いが、アンリが嘘を付くとも思えん。解った、少し待て」


 クイーンは僕にそう言い残すと、洞の奥にある祠へと向かった。










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