従魔登録

 僕はずっと考えていた。


 この子がミルクじゃなければ、他の名前を付けなければならない。しかし、ミルクの可能性もゼロと言うわけではないのだ。


「どうしたものか……」


 本来は焦る必要もないのだが、この子を従魔登録しなければならず、名前をつけなければならないのだ。


「悩ましい……」


 本当はミルクとつけたいし、ミルクであって欲しいとも思っている。しかし、そんな世迷い言は寝ている時に言うものだろう。僕は真剣にこの子と向き合って生きると決めたのたから。


 と、頬を何かが伝う。


 僕の手にはミルクの核が握りしめられている。そうだ、この子はミルクとは違う。そう、思うことにしよう。たとえミルクであったとしても、一からやり直そう。僕は頬に伝うそれを拭って、申込用紙にスライムこの子の名前を書いた。


『ティア』


 そうだ、この子はこの涙のような小さな頃から育てている。指の先にちょこんと乗るほどの大きさだったこの子も、確実に成長していて、初めに会ったミルクの大きさほどには成長している。


「はい、可愛いスライムのティアちゃんですね。この名前で登録いたします」

「お願いします」

「はい、確かに確認、受領いたしました。こちらの魔石には、この子の魔力を登録しております。これは貴方がティアちゃんの主である証となりますので、無くさないようにしてくださいね?」

「はい」

「そして、魔力情報はギルドでも預かっております。仮にティアちゃんが何か問題を起こせば、全て貴方が責任を負うことになります。ご注意ください」

「はい」

「それでは、登録及び簡単な説明は以上となりますが、何か質問はございますか?」

「この従魔登録は王国の外でも有効ですか?」

「いいえ。他国の従魔法はそれぞれ規格や規定が異なりますので、それぞれで登録していただきます。今回の登録は王国内のみのものとなります」

「わかりました。ありがとうございます」


 これで王国内では堂々とティアを育てることが出来る。


 僕は家に帰る前に、精魔石と薬草の採集へと向かう。勿論ティアもウエストポーチに入っているので連れてゆく。懐いてはいるので逃げ出すことはないだろう。まあ、僕に嫌気を差して逃げ出すなら、それはそれで仕方ないと思っているが。


 王国の外門を抜けると森に街道がつづいており、一歩外へ足を踏み出すと横風がビュウ、と吹き抜ける。

 少し寒くなって来ただろうか、スライムに寒さは関係あるのかどうか判らないが、寒期の間、薬草は採れなくなるのでいくらか保存しなけらばならないだろう。そして、その間に冬場でもティアの食べられるものを探さなければならない。


 森の中も少しひんやりとして肌寒い。そして渓谷の方はもう少し冷えている。


「ティア、寒くはないかい?」


 と言っても返事はない。ティアに触れると冷気をそのまま受けていてひんやりとする。暖期ならば気持ちいいだろうが、この寒期ではその恩恵はない。

 僕はティアが寒くないか心配で懐に入れる事にした。う、冷たい……。


「ティア? ずっと一緒だからな、ずっと……」


 そう、ティアに声を掛けると、ティアはモゾモゾと動き。


「ズット……?」


 と言った。


 ようやく……、ようやくティアが話してくれた。僕は、ティアと一緒なら幸せだ。そうだ、ずっと一緒に居たいと、本気で思っている。









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