淡い気持ち

 僕は悩んでいた。


 このスライムをミルクの生まれ変わりの様に思っている。それが、この子にとってどうなのか。本当にミルク生まれ変わりならば問題ないだろう。しかし、そうでなかったならば、この子にミルクと同じ思いをさせてしまわないだろうか、それが心配だ。

 つまり、ミルクにアシリアの影を求めたように、この子にミルクの影を求めてしまわないだろうかと言う懸念だ。


 慎重になるべきだろう。


 僕は名前を付けるのを保留にして、育成を集中して頑張ることにした。薬草と精魔石をたくさん用意して与える。そしてその間も話しかけてコミュニケーションを図ってみる。


「君……名前はあるのかい?」

「……」

「呼んで欲しい名前はないかい?」

「……」


 まだ団子くらいの大きさだ。僕が焦っているのは理解している。そもそも喋れないのだ。こちらの言葉が聴こえたとて、未だコミュニケーションをとるには早いのだろう。



──コンコン!


「開いてますよ」


──ガチャリ。


「アンリさん」

「やあ、フレデリカさん」

「良かった、ずいぶんと良くなられたようですね?」

「ああ。君のおかげで僕は決心がついた。感謝している」

「その子を従魔登録するんですね?」

「ああ。誰にも後ろ指さされることなく、堂々と飼いたい……いや、飼うだなんて……烏滸がましい話だ」

「んふ。わかってますよ! アンリさんがその子を大切に思っていることは!」

「ああ。この命よりも大切だ」

「ええ。わかりますとも。私もアンリさんを諦める決心がつきました。新しい恋に生きようと思います!」

「……まだ諦めてなかったのか」

「えへへ。こう見えて私、一途なんですよ?」

「どう見えていると思っているのか知らんが、とにかく先に進むのは良いことだ」

「私、団長をお支えしようと決めました。アリシアさんて方、アンリさんの心にずっと居座っていて、正直なところ、憎たらしくて仕方ありませんでした。不謹慎な話、もうこの世にいないのに、アンリさんの心掴んで離さないんですもの。しかし、先日知りました。アンリさんの他にも囚われている人がいるんだと。団長です。アンリさんの心はミルクさんが解放してくれました。しかし団長はそうも行きません。私はそんな気の毒な団長を放ってはおけません!」

「そうか、お前も気の毒だな、フレデリカ?」

「ふぇ!? 何で私なんです!?」

「こんな不憫な男ばかりに捕まっているじゃないか」

「あははは……そうかも、知れませんね! でも、良いんです。それぞれ、素敵な人なんですもの。死んだ人には負けたくないですし!!」

「そうだな! 応援ならいくらでもしてやる! 頑張れ!」

「はいっ!! ……えへへ〜♪」


 フレデリカは顔をあからめて照れている。可愛らしい女性だと言うことは認めよう。


 しかし、僕はこのスライムと生きてゆく。後悔はない。迷いもない。そして何よりも、僕の望みだ。この子の為なら、命も惜しくない。










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