出逢い

 スライム。


 それは未だ研究が続けられ、その生態のほとんどが解明されていない謎の生命体だ。


 酸でモノを溶かすもの。


 擬態などで捕食を免れるもの。


 無尽蔵に増え続けるが、多くの魔物の捕食の対象となり、その中では底辺だと言える魔物だ。


 知性や感情、まして、会話などのコミュニケーションをとれる個体などは知られていない。



 突然変異。


 それは、言うなれば癌に等しい。


 無限に続けられる細胞分裂の中で、突然今までに無い変異型が生まれることがある。細胞分裂の際に、様々な要因で遺伝子が、質的、量的にエラーを起こして、異なる性質を持つものである。

 確率で言えば、高等生物で十万〜百万分の一程度であり、その中で十億個のうちの塩基対あたり、ひとつとされているのだから、下等生物であるスライムにとっては、奇跡に等しい存在だと言えよう。


 仮に。


 仮に、スライムに知性や感情、そして会話などのコミュニケーションがあったとしよう。


 さりとて、スライムはスライムなのだ。


 多くの魔物の捕食の対象であり、人族の討伐の対象なのだ


 そんなちっぽけな存在。


 それがスライムだ。


 それがミルクだ。



 ミルクはこの世に生まれてしまった稀有な存在だ。


 スライムに知性や感情なんて用を作さない。まして、コミュニケーション能力など、一体なんの価値があろう?


 幼かったミルクは、この世に生を受けたことに、嫌悪感を抱いていた。


 たいして何も出来ないマシュマロボディ。


 魔物を見たら逃げなければならないが、こんな身体では逃げるよりも隠れて生活する方が、安全だと言える。


 隠れて生活をして、生き長らえたとしても、このコミュニケーション能力は活かされないし、まして知性や感情などは邪魔でしかない。


 毎日毎日。


 コソコソと隠れて、魔力が含まれるモノを探して捕食し、ただ、永遠に孤独を生き続けなければならない『無限地獄』


 生きていくことに、嫌気が差していた、ある日のこと。


 仲間が街道で馬車に轢かれて死ぬのを目にした。


 この時、初めて『死』と言う概念が存在している事に気づいたのだ。


 これで『無限地獄』に終止符を打てる。


 そう思い、その終止符を打つべく、馬車の往来が一番多いと思われる、王国へ続く街道へとその身を投じた。


 案の定、馬車はすぐに来た。


 そして見事にその車輪の下敷きになった。


 ……。


 核が敷き詰められた敷石の隙間に入り、壊されなかった。身体だけが潰されて、身動きが取れない状態が続いた。


 何度も馬車に轢かれ続けると言う『無限地獄』


 嗚呼、普通に生きているより辛い。苦痛はないが、身動きがとれず、心が病みそうだった。


 ……いや、病んだからこそのこのザマなのだ。情けない。


 そうして、ミルクが途方に暮れて数日が過ぎた頃。


 一人の人間が近付いて来た。


 これでようやく無限地獄に終止符打てる、そう確信した時、人間は思わぬ行動に出た。


 何と、この潰れた身体に薬草を投与し始めたのだ。


 ミルクの身体はそれによって魔力が回復し、身体を再生することが出来た。


 こともあろうに、その人間はミルクを家に持って帰ったのだ。


 それがミルクから見た、アンリとの出逢いだった。


 









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