フレデリカ③

 僕は、フレデリカさんに一連の流れを説明すると、初めは訝しそうな顔をしていたのだが、だんだん目がキラキラ輝いて、最終的には前のめりになっていた。


「やっぱりアンリ様って凄い方だったんですね!?」

「はいい?」


「かねがねアンリ様のお噂は伺っておりました。『難攻不落の要塞』だとか、『人間金剛鋼』だとか言うんですよ? いったいどんな人だろう?って思うじゃないですか!? そうしたらご本人とこうして出会えるなんて!! 私、感激です!!」

「へえ、そうなんですか……」


 僕は、関心なさそうな振りをして軽く聞き流した。


「あのお、そのお……アンリ様?」

「はい、何でしょう?」


「また明日もこちらへ伺ってもよろしいでしょうか?」

「……」


 コテッと首をもたげて聞いて来るが。僕としてはとくに話すことも無い。


「ダメ……ですか?」

「そうだな。僕にもプライベートがある。用がないならそっとしておいてくれないだろうか……?」


 ……あからさまにションボリヘニョンな感じになるのやめて欲しい。


「わかりました」

「理解してくれて助かるよ」


「アンリ様にはもう、心に決めた方がおられるのですね?」

「はいい!?」


 ついさっきも同じ返しをしたところだよ? 何なのこの娘?


「不肖、フレデリカは、アンリさんとお近付きになりたいのです!」

「それはどう言う……?」


「そこまで聴きます!?」

「ハッキリしておきたいのだが、僕は誰とも付き合わないからね?」


「がび──ん!!」


 両手を広げて驚いている。非常にわかりやすい反応でけっこう。


「そんな取って付けた様な反応初めて見たよ?」

「ショックです……やっぱり私、可愛くないですもんね?」


「……ハッキリ言うが、普通だな?」

「ハッキリ言わないでください! 傷つきますからっ!!」


 じゃあ、何て言えば正解なんだ?


「そうか、すまんな?」

「いえ、かえって清々しかったです!」


 良かったのか!?


「じゃあ、気をつけて帰れよ?」

「追い出しにかかってる!?」


 早く帰れ。


「まだ何か用があるのか?」

「いえ……私、やっぱり魅力ないですよね? 騎士団なんて無骨な仕事についてますし……」


「さあな? 僕には興味がないだけだ。さっさと帰れ!」

「ひっ!?」


 さすがにこれだけ言えば帰るだろう。あ……。


「お、お邪魔いたじま゙じだ……ひっぐ……」


 そんな……そんな顔をグシャグシャにして泣かなくたって……。


「おう、気を落とすなよ?」

「……ゔえ゙え゙え゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ん゙」


 女って難しいな……。


──パタン。


「アンリ?」


 っ!? 振り返ると、そこにアリシア、に模したミルクが立っていた。


 僕はハッとして、心臓が跳ね上がった。


 ミルクが、アリシアの顔で不安そうにしているのだ。


 何もしてないのに、何とも居た堪れない気分だ。何だろう、このザラリとした気持ち悪い感情は……。







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