ミルクの手触り

 ある日のことだった。


 僕が仕事から家に帰ると、ミルクは元のスライムに戻っていた。しばらく見ていたが、アリシアに擬態する様子はない。


 そして、心做しか元気が無い気がするんだ。


「どうしたんだろう? 体調、悪いのか?」


 僕はミルクに話しかけてみるが、当然返事が返ってくるわけもなく。餌に与えていた薬草もほとんど食べておらず、ガラス容器の隅で丸くなっている。


 僕は心配だが、ミルクの様子を見守ることしか出来なかった。


「ミルク……どうしちゃったんだ?」


 ……ん? 少し動いた?


「ミルク……?」


 プルン、白い肌が揺れる。反応してる?


「ミルク、おいで?」


 プルプルと、少しづつ近づいて来る。僕は少しホッとして、薬草をミルクに近づけてみた。


 シュワワッと溶けてゆく。……良かった。


「良かった……ミルク。僕、ミルクを相手にしてるのに、アリシアとして君を見ていたよ。きっと、さみしい思いをさせてしまってたんだね?」


 僕の勝手な思い上がりかも知れないけど、ミルクが僕に懐いてきたと言う事だろう。


「ミルク……」


 名前を呼ぶと、ミルクはプルンと身体を震わせて応えてくれる。可愛いヤツ。


 ──!?


 ミルクが──。

 

 ──ミルクが薬草を持っている僕の手に触れて来た!?


 ……大丈夫だ。酸が強い個体も多く、かぶれたり、炎症したりするものだが、僕の手はなんともない。それにしても──。


「──君、なんてスベスベなんだ!?」


 僕はミルクを手のひらに乗せて転がしてみた。非常に手触りが良い。例えるなら、赤ちゃんのほっぺたのように、キメが細かくて柔肌なのだ。


 ミルクの手触りは極上。


「ミルク、君ってスベスベしてて気持ちいいね?」


 まあ、言葉が解るのか解らないのか、僕には判断できないけど、ミルクをこうして褒めてやると、何となく喜んでくれている気がする。


 良かった。


 僕は、知らず知らずのうちに、ミルクへの依存度が増していたのだが、この時はまだ、そんな事に気づくほど、自分の境遇が見えていなかった。











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