アリシア?

 実は、王国では未登録のモンスターを飼うことは禁止されている。テイマーなどが従魔として飼う際は、ギルドに従魔登録を届けなければならない。


 しかし、僕はテイマーでもないし、こんな見たこともない、いや、あまり王国から遠くへ遠征することのない僕が知らないだけで、もしかするとありふれているモンスターなのかも知れないが、こんな真っ白なスライムなんてレアモンスターとかだったら、騒がれて、取り上げられるかも知れない。それだけは避けたかったので、僕は秘密裏に飼うことにした。

 いや、飼うと言ってもあれだ、元気になるまで保護するだけで、元気になったら自然に帰そうと考えている。


 とりあえず、スライムを飼う為にはガラスの容器が要るのだ。僕は雑貨屋で錬金術師が使っている、大きなガラス容器を購入すると、部屋のテーブルに置いてミルクを入れた。


 ミルクと言うのはこのホワイトスライムの名前だ。暫定的ではあるが、飼う以上は呼び名が欲しくて勝手につけてしまった。それくらいは構わないだろう?


 モンスターの生態についてはわりと自負するところもあるくらいには自信があったのだが、ことこのホワイトスライムに関しては全くの素人だ。基本的にいったい何を捕食するのか解らなかったので、食べてくれた薬草を中心に色々と試してみることにする。


 こうして僕のルーティンにミルクの世話が追加されたわけだが、まあ大して変わっていない。今日も薬草を採集してギルドに売って安酒買って、写真を見ながら一杯呑んで寝るだけだ。


「アリシア……」


 今日もアリシアの写真を見て名前を呼ぶ。呼んだところで彼女が戻って来るわけでもなければ、彼女と話が出来るわけでもない。

 写真の横、ガラスの容器にミルクがいて、何となくこちらを見られている気がする。気のせいだろうし、例えそうだとしても何ということもない。

 今日もこのまま眠りに就くだけだ。


 こうして何日かが過ぎたある日。


「おい……嘘、だろう?」


 僕は仕事を終えていつも通り、安酒を買って帰って来たら部屋にアリシアが立っていた。


 いや、語弊があるので言い換えよう。


 ガラスの容器の中でアリシアを模したミルクが立っていた。


 僕は目を擦ってもう一度見直したが見間違いではない。スライムの中には擬態を得意とするスライムもいるらしいが、これは擬態とかいうレベルではなく、実に精巧に再現されている。


「アリシア?」


 返事はない。


 ないがこれは……くそ、涙が止まらない。ミルク、辞めてくれ。君はアリシアじゃない。その格好をして、僕を見ないでくれ……。


 そう、心のなかで叫びながらも、辞めて欲しくないもう一人の僕がいたのだろう。


 声にならなかった。










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