野垂れスライム

 僕は騎士団を辞めて、冒険者を始めたけれど、最近思うことがある。


「僕って冒険者に向いてないよね?」


 そんな事を呟きながら、僕は今日も薬草採集の依頼を請け負っている。

 冒険者なんだからモンスター討伐した方が実入りが良いのでは?と思われる方も多いだろう。


 だがしかし。


 僕はどうやらモンスターを殺せない。


 元来僕は生き物の殺生を好まないでいる。騎士団に入団したのは、生まれ持っての丈夫な肉体を活かして、街の護衛を務めたかったからだ。

 しかし騎士団を辞めた僕は、街の仕事を転々としたが、不器用が祟って失敗ばかりが続き、普通の仕事が向いていない事を思い知らされた。

 そんな僕は、冒険者になるしか道はなく、モンスターの討伐依頼は請けられない為に、採集系の依頼の仕事ばかりを請けている。


 よく人に変だと云われるが、そんな事を云われても殺せないものは仕方がないだろう?


 どちらかと言えば好きなのかも知れない、モンスター。


 特にスライムは好きで、小さな頃に家で飼おうとして持って帰ると、よく親に叱られたものだ。

 スライムは色によってその特性が変わる。この薬草を主食にしているライムグリーンのスライムなんかは、傷口に当てると癒やしの効果がある。あまり知られていないことだが、このライムグリーンスライム、香りがとても良くて、リラックス効果も高いのだ。なかなかのスグレモノだろう?

 逆に毒草を好んで食べるバイオレットスライムなんかは猛毒なのだ。しかしこのバイオレットスライム、実はライムグリーンスライムとかけ合わせると、解毒の効果があるスライムが生まれる。


 それにしても……。


「もしかして、新種?」


 思わず声に出てしまったが、そうだ、見たこともないスライムが目の前にいる。王国から隣街へと続く街道の真ん中に、真っ白なスライムがだらしなく野垂れ死んでいる。どうやら馬車に轢かれたと思われるその白いスライム、仮にホワイトスライムとしておこう。ホワイトスライムは馬車の轍の跡を、その滑べらかなミルクボディに刻みつけている。


 何故、それがスライムなのだと判るのか? それは僕の勘と言わざるを得ないが、これは間違いなくスライムだと断言してもかまわない──。


 ──ハッ!?


 僕は見逃さなかった。今にも地面と同化しそうなスライムが、ほんのわずかにピクリ、と動いたことを。


 スライムは魔物、つまり魔法生物なのだ。よってこの魔力を多く含む薬草をくれてやると回復する可能性が高い。核は……潰れてはいない、大丈夫だ。


「お願いだ……少しでいいから食べてくれ……」


 そう、声をかけながら僕は、地面に這いつくばってスライムへ薬草を与えた。


 薬草の端をスライムに近づけると、少しづつ溶けて……スライムが元の形へと戻ろうとする。


「よ、良かったぁ……さあ、もっと食べろ! 元気になれ!」


 まあ、ガタイの良いオッサンが街道の真ん中で這いつくばってスライムに薬草やりながら声かけてる絵面はさぞかし滑稽だろう。だが、そんなことはいい。

 僕はこの子が元気になってくれればそれでかまわない。そう思っていた。しかし……形状こそは回復したが──。


「──動かない……」


 僕は、どうしても放っては置けず、そのホワイトスライムを持って帰ることにした。











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