第2回

「24歳です」

「今日は、有給休暇を取って?」

「はい、大事な日ですから」

「ごめんね、若島田さん。私は、」

「いいんです。ーーこればかりはしょうがないです」

 若島田は、笑顔を見せると、「でもよかったです。雪美ちゃんが、こんな楽しそうな人と付き合ってたなんて」

 聞いてた百合亜は、吹き出しそうになった。

「楽しそうな?」

 霊が首をかしげ、「もう少し、違った表現出来ないかな」

「ありがとう」

 雪美が、微笑んで、「若島田さんも、出会えます。若島田さんが大切に思っているものを同じように大切に思ってくれる人が」

 ーーウエートレスがやってくると、

「俺、アイス!」

 と、霊が真っ先に注文をすると、「俺、あんたに会ったら、どうしても訊きたいことがあったんだ」

「僕は、ホットで」

 と、若島田が注文を済ますと、「なんでしょか?」

「ヘビを飼うやつというのは、みんなやりたがるのか、ヘビを首に巻くやつ」

「みんなではないでしょうけど、僕は、よくやります」

「私、ミルクティー」

 と雪美が、注文ををすると、ウエートレスは、しばらく立ち止まったまま、ジーっと若島田を見つめてた。

「あのー、ヘビ飼ってるんですか?」

 と、ウエートレスが若島田に声をかけた。

「はい。爬虫類好きなんで。すみません」

 なんであやまるんだ。

 と、百合亜は、首をかしげた。

「私も、爬虫類大好きなんです。でも、私の周りにあんまりいないんです。爬虫類好きな人」

 ウエートレスは、頬を紅潮させると、「よかったら、いろいろアドバイスとかしてくれませんか。ヘビとかイグアナとか飼いたいんで」

 若島田が、名刺に連絡先をメモして渡すと、ウエートレスは仕事に戻った。

 百合亜は、何となく腑に落ちない。

 百合亜は、霊にメールを送信した。

<これって偶然?>

<あのウエートレスが、爬虫類大好きなのは知ってた>

<うちの大学の子?>

<そう>

<これ考えたの、あなた?>

<花田先輩>

<やっぱりね>

<くれぐれも内緒で!>

 若島田が帰ると、

「水鳥さん、ありがとうございました」

 と、雪美が深々と頭を下げた。

「いや、別にそんな大げさに頭をさげなくても。ほんのちょっと恋人のふりしただけなんだから」

「そっちのほうじゃないです。若島田さんのほうです」

「彼のこと?」

「とぼけなくてもいいです」

 雪美が微笑むと、「あの子に会わせるために、この店を選んだんですね」

「ばれたか」

 霊は、肩をすくめ、「まあ、君の話ぶりからして、若島田さんが悪い人ではないことは感じていたから」

 きっと、そう花田さんが言ったのだろう。

「私たちは、これでタイムオーバーですね」

「いや、タイムは、無限大に修正すればいいんじゃない」

 百合亜は、調子にのるな!

 と、言ってやりたいところだが、

「そうですね、そうしましょう」

 と、雪美が微笑んだ……。

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許婚 北斗光太郎 @11hokuto

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