第3回

ボーっとして、頼りなさげに見える。

「どうして泣いてるですか?」

 と、花田慶次が訊いた。

「私、シュンさんに裏切られました」

 と、真理恵は、涙を拭いながら言った。

「彼がそう言ったんですか?」

「そう。どこかのお嬢様に乗り換えるそうです」

「--俺が説明するよ」

 なんとなくの流れで、誠が口をはさんだ。

 誠がちらりと俊之助を見ると、俊之助はケータイに夢中である。

 誠は、見てきたことを、そのまま慶次に話した。

 黙って話を聞いた慶次は、

「--西俊之助くんですね」。

 と、俊之助に声をかけ、「僕は、花田です。あなたには一度お目にかかりたいと思ってました」

「花田?」

 顔をあげた俊之助は、「ミステリー研究会の、花田慶次さんですか?」

「はい。あなたのことは、こちらの海野さんからいろいろ聞いてます」

「自分も、花田さんのことは、真理恵から」

「それで、動物園は見つかりましたか?」

「はい。今から、電話してみます」

 と言うと、俊之助は、またケータイに目を落した。

「--あいつ、何やってるんですか?」

 と、誠は、慶次に訊いた。

「ソミーグループが狙ってるという動物園を、検索していたんでしょうね」

「あいつ、お嬢様の話、疑ってたのか?」

「そうじゃないですね。どこの動物園か、具体的に知りたかったからでしょうね」

「そんなの、入社すればすぐに分かることですよ」

誠は、ハッとすると、「そうか、あいつ、初めから入社なんかするつもりなかったんだ」

「どういうことですか?」

真理恵が、目をパチクリさせる。

「簡単なことです」

慶次が微笑み、「彼が興味があったのは、最初から最後まで動物園のことだけです」

「じゃあ、お嬢さんと結婚するしないていうのは?」

「おそらく、耳にも入ってなかったーーと思いますけどね」

「こりや、傑作だ」

と、誠は声をあげて大笑いした。

「シュンさんたら、もう!」

真理恵は、頬を膨らませる。

当の本人は、

「しまった!」

と、顔をしかめると、「お礼状出さなきゃならないのに、名前を訊くのを忘れてしまった」

と、頭を掻いたのだった……。

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令嬢への礼状 北斗光太郎 @11hokuto

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