第2回

私は、他の部員の反応を見て、ため息を付いた。

 これだけ優子さんが騒いでいても、チラッと見ただけで、また自分の世界に戻る。

 これは、私を除いた全ての部員に共通している。

 でも、ここはこの人に頼るしかない。

「花田先輩!」

 私は、丸メガネをかけて、一見ボーっとしてるとしか思えない、4年生部員の花田はなだ慶次けいじ先輩に、声をかけた。

 謎を解くのが大好きな花田先輩である。

 興味はあるだろう。

「先輩!」

 今にも泣きだしそうな声で、五代先輩が、「次元君は、幽霊なんでしょか?」

 と、花田先輩に訊く。

「--その前に、五代君は、その次元君のお葬式には、出たのですか?」

「それが、葬式は身内だけで済ませたらしくて、僕たちは事後報告を聞いただけなんです」

「では、もう一つ。次元君が、結婚詐欺師と呼ばれていたのは何故ですか?」

「それですか」

 五代先輩には珍しく、おかしそうに笑うと、「次元君は、常に何人か同時に彼女がいたからです」

「女子生徒に、よくモテたってことですね」

「そうです。それで、男子からやっかみ半分でそう呼ばれてました」

「当時、何人くらいと付き合っていたのかは憶えてますか?」

 花田先輩が訊いた。

「はっきりとは憶えていませんが、三人はいたと思います」

「--ところで峰くん!」

 と、花田先輩が、私に問いかけ、「君、不思議だと思わないか?」

「そりゃまあ、死んだはずの人間が生きてたんですから」

 と、私が肯く。

「そうじゃないです」

 花田先輩は、微笑むと、「同時に三人の女性と付き合うような派手な男と、どちらかと言えば、部屋に閉じこもりがちな五代君が親しいことですよ」

「--そういえば、そうですね」

 私は、なるほどと思いながら、「どうしてですか?」

 と、当の五代先輩に訊いた。

「それは、クラスもずっと同じでしたし、部活も同じ将棋部でしたから」

「山が大好きで将棋が趣味という人が、一方で、三人の彼女と付き合う軟派な男」

 私は、首をかしげると、「その女の子たちは、みんな山好きな子たち?」

「それは」

 五代先輩は、目を宙にむけると、「分かりませんけど、みんなが山好きっていうことはないと思いますよ」

「次元という人は、将棋よりも山、山よりも女、そういう人なんですね、きっと」

 と、私は言い、花田先輩を見た。

「--と、峰くんが言ってますが、どうなんです、五代君?」

 花田先輩が、なんだか楽しそうに五代先輩を見る。  「--次元君とは、高校の時に知り合ったんですけど、将棋を指しながら、よく山の話をしてくれました」

 五代先輩は、なつかしげに、「山の話をするときの彼の顔は、そりゃ輝いてました」

「そりゃそうよ!」

 優子さんが、肯くと、「私が、大好きになるくらいだからね」

「次元君は、やさしすぎたんですね、多分」

 五代先輩は、言うと、「誰か一人を特別扱いできなかった、結果、複数の女性と付き合うような形になったんではないでしょうか」 

「--なるほど」

 花田先輩は、軽く肯くと、「僕は先ほど、訊き方をまちがえたみたいですね」

「何の事ですか?」

 私は、目をパチクリさせた。

「次元君は、女生徒と言うより、女性に対してーーもっと言えば、誰に対してでもやさしかったのでは?」

 花田先輩が訊くと、

「それ、そんなにこだわるところですか?」

 と、私は訊いた。

「はい」

 と、花田先輩がはっきり応え、五代先輩をみる。

「たしかに、そうですね」

 五代先輩は肯くと、「困ってる人を見ると、放ってはおけない性格ですね」

 花田先輩は丸メガネを外すと、レンズを拭き始めた。

 メガネをかけ直した花田先輩は、優子さんに微笑みかけると、

「青島さんは、よく言ってましたね。山を愛する人に悪い人はいない、って」

「そうです。その通りですから」

 と、優子さんが肯く。

「次元君は、あなたの思ってる通りの人だと思います。もちろん、幽霊なんかじゃないです」

「本当ですか!」

 優子さんは、胸に手を当てて、「よかった……」

「でも、どうして死んだふりなんて?」

 と、私が訊くと、

「転校するためでしょうね」

 と、花田先輩が言った。

「転校なんて、死んだふりなんてしなくても出来ますよ」

 私は、目をパチクリさせた。

「学校の中に、次元君は死んだと思ってもらいたい人がいたんですよ」

「そういえば」

 五代先輩は、目を宙に浮かせ、「次元君がストーカーに付きまとわれてるとか、って噂があった。もしかして、関係あるんでしょうか?」

「さあ、僕にはなんとも」

 と、花田先輩は肩をすくめた。

 やや煮え切らない思いはあったのだが、優子さんの幸せそうな笑顔を見れば、まあいいかと思うしかないだろう……。

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結婚詐欺師 北斗光太郎 @11hokuto

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