第8話・後始末ってなんでめんどくさいんだろう?〈最終回〉

 魔力ランクB天才が放った炎の全体攻撃。

 小さな野球場レベルの広さを持つ第三闘技場を埋め尽くす炎に、観客席にいた生徒達は口を大きく開いていた。


「さ、さすが、腐っても名家の令嬢だな……」

「ここまでの火力だとあの雑魚でも終わりか?」

「てか、大体のやつはこの攻撃を受けきれないわよ」

「「「それはそう!!」」」


 あのー、勝手に死んだような扱いはやめてください。

 周りに焦げ臭い匂いが充満しているが、僕は体の周りに作り出した銀色の鎖を腕輪に戻して立ち上がる。


「夏の沖縄くらいの暑くないか?」

「へえー、結界の中はムシムシしているのか」

「そうそう。って、しれっと観客席を乗り出してもいいのかい?」

「中に入ってないから大丈夫だろ」

「なるほど……」


 逃げた先が晴人がいる場所とかついてるな。

 観客席の特等席一番前に座っている晴人とだべっていると、周りにまっていた煙が消え始めた。


「なっ、なんで無事なの!?」

「アイツなんか叫んでないか?」

「さあ? まあ、今は試合中だし戻るよ」

「おう!」


 晴人にはカッコつけたが戻りたくないな。

 重りがついたような足を強引に動かし、なんとかフィールドの中央に戻ると口を大きく開けた炎城さんが言葉を吐く。


「アンタ、主席に守ってもらったの!?」

「あのさ。そもそも結界の中に魔法を通すのはほぼ無理なのは炎城さんも知っているよね」

「ぐっ!? なら、なんでアナタは無傷なのよ!」

「トリック」


 トリック答えは宝具・銀鎖の腕輪を使ってだけどね。

 防御性能では晴人の攻撃すら防げる銀鎖の腕輪。二年前にたまたまコイツが手に入った時は二人で焼肉を食べにいくレベルで喜んだくらい。

 その時のことを思い出していると、彼女は苦笑いで拳をギリリと握った。


「最初は雑魚と侮ったけど何かしらの強さはあるみたいね」

「いえ、僕は正真正銘の雑魚だよ」

「せっかくわたしが褒めてるのに自分から落とさない!!」

「ええ……」


 いやだって、実際に雑魚なのはその通りだもん。

 また変な勘違いが入っている気がするが、最初の頃よりもいい笑顔を浮かべた炎城さんがフンッと鼻を鳴らす。


「まあでも、この勝負は負けないわよ!」

「あ、はい」


 ぶっちゃけコッチは勝つ手段がほぼないんだよな。

 そもそも彼女の一人相撲状態なので突っ込むか迷っていると、魔力・体力共に消耗してそうな炎城さんが気合いを入れながら切り掛かってきた。


「はあぁ!!」

「おっと!」


 へぇー、さっきよりも鋭くなってるな。

 残り時間は五分弱でこのまま逃げ切れば問題ない。

 そう思っていると、彼女はしゃがみ地面の砂を手にした。


「コレでもくらいなさい!」

「ちょっ!? それは汚くないか!」

「この勝負に本気で勝ちたいから汚名くらい被ってやるわ!」


 なんか振り切ってない?

 もはや子供の喧嘩みたいに刀を振り回す炎城さんと、ひたすら逃げ回る僕。

 互いに決定打がない中、モニターに当たっていた制限時間がゼロになりタイムアップになる。


『そこまで! この勝負、タイムアップで引き分け!!』

「ははっ、疲れた……」「疲れた!」


 第三闘技場に広がる終了のブザー音を聞いてへたり込む。

 

「もうやりたくない」

「わたしはまたやりたいけどね」

「さ、流石に無理! てか、さっきまでの尖っていたのはどうしたの?」

「別に! それよりもこの勝負はよね」

「お、おう?」

 

 あのー、なんかめっちゃいい笑顔をしてない?

 フラフラになりながら立ち上がると、目の前で大の字になっていた炎城さんが笑う。


「つまり引き分けなら賭けの内容は無効よね!」

「えっと? 確か賭けの決まりは君が僕に勝てなかったら有効だったはず」

「……へ?」


 この場合だと炎城さんが勝つ以外は敗北。

 つまり引き分け以上は賭けは僕の勝ちになり、生徒指導室で言っていた内容が有効になる。

 我ながらタチが悪いので嫌な笑みを浮かべつつ、目が点になっている炎城さんが勢いよく体を上げた。


「そ、そんなバカな……」

「賭けの内容は後で確認しようか」

「えええ!?」


 あくまで僕の記憶なので完璧じゃない。

 悲鳴をあげる彼女をよそにふらふらになりながら、満面な笑みを浮かべる晴人と合流していく。


「お疲れさん!」

「いやいや、それよりも今回の賭けの内容は覚えている?」

「ん、確かアイツが裕太に勝てなければ下僕になるんだったよな」

「そうそう! ……え?」


 あれー、なんかズレてない?

 僕の記憶では下僕以外にも何かあったはずだけど、晴人の記憶では別らしい。

 内心でアタフタしていると、審判をしていた五里先生が自慢のスキンヘッドを光らせながら近づいてきた。


「試合お疲れ! でだ、話をしたいからお前らも生徒指導室にきてもらってもいいか?」

「「ええ」」


 条件の確認も含めて行かないとな。

 個人的には高級焼肉の奢りを考えていたが、それ以上の事ができそうなので僕は晴人と共にウキウキで五里先生の後ろをついていく。


 --


 葉隠学園・校舎内にある生徒指導室。

 全身が灰色になった炎城さんが金魚のように口をパクパクさせている中、賭けの内容を確認していく。


「こ、今回は引き分けだったから黒羽の勝ちだが下僕って……」

「僕の評判が悪くなりそうですよね」

「まあ、喧嘩になったらオレがなんとかするぜ」

「それは助かる」

「喧嘩前提なのはやめてくれ!?」

 

 もはや隣の椅子に座る晴人がボディガードです。

 身を守るという意味では心強いが、問題が増えそうなので出来れば穏便に行きたい。

 

「あ、あのさ炎城さん。下僕の話は高級焼肉を奢ってくれたらチャラにするよ」

「は? わたしよりも焼肉の方がいいの?」

「その通り」

「おい、その言い方は煽ってるだろ!」

「ハハッ、コレが裕太だからね」


 晴人よ、ここは笑うところじゃないぞ。

 というか僕は煽ってないのに煽ってるとか、風評被害がすぎないか?

 少しずつ不満が溜まっていると、ソファーに座ってる炎城さんがワナワナと唇を震わせた。


「決めた! アンタにはわたしが焼肉よりすごいのを証明するわ!」

「いやあの、ただの焼肉じゃなくてがついてるよ」

「対して変わらないわ!」

「「「あ、はい」」」


 ええ……。

 さっきまで嫌われてたはずなのに、ここまで突っかかられると思うところがあるな。

 モヤモヤと訳のわからなさに頭が混乱していると、炎城さんが自分の胸に手を開く。


「そんなわけでよろしくねご主人様と主席」

「う、うん、コチラこそよろしくね」

「ええ!」

「おいおい、オレはなんかないのかよ」

「さあねー? あ、そんなわけでカケはこんな感じになったわ」

「お、おう、お前らがそれなら問題ない」


 本当にいいのかよ。

 最終的にはまとまった感じがあるので一息吐いていると、五里先生がめっちゃいい笑顔でカバンからある物を取り出した。

 

「ただはしっかりしろよ」

「「「……え?」」」

「え、じゃねーよ!」


 テーブルにおかれる書類の束。

 僕と晴人は決闘関係の報告書で、炎城さんは反省文の続き。


「ねえ晴人、なんでこうなったんだろう?」

「さあ? まあでも、最悪よりはマシだろ」

「それはそうだけど……。あ、炎城さんに任せればよくない?」

「確かに! そんなわけでオレ達は帰るな」

「待て待て!? この状況でわたしを置いていく気なの!?」

「「うん!」」

「「コイツら……」」


 最悪の未来よりも今の方がマシ。

 そう考えながら僕達は茶化しながら、五里先生の主導でなんとか書類を始末をしていく。


「弱さって時には必要なのね」

「えっと、何かいった?」

「別に?」


 始末書&反省文を書いている炎城さん。

 彼女の頬が少しゆるんだ感じはあるが、僕にはわからなかった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強を率いる最弱リーダー〜弱々な僕の周りには勘違いで最強が集まってしまいます 影崎統夜 @052891

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ