第7話・時よ戻れ!〈過去に戻って次席(お嬢様)と戦う未来を変えて欲しい〉

 時は戻り、第三訓練場。

 観客席には一年生はもちろん、試合に興味を持った上級生達の姿も見える。


「しっかし今年の次席は問題児っぽいな」

「てか、入学して即退学とか何をしたのよ……」

「超イケメンの主席にフラれてヤケで武器を振り回したらしいよ」

「「「ええ!?」」」


 わあぁ、どんどんオヒれがついてない?

 観客席にいる生徒達が好き勝手言っている中、炎城さんはガリリッと歯軋りをしながら訓練用の刀を腰から引き抜いた。


「なんなのよこの学園は!」

「あのさ、僕に八つ当たりをしても仕方ないよね」

「このっ! 誰のせいでこうなっているのよ!」

「決闘を提案したのは炎城さんで承認したのは五里先生」

「そう、ゆう、いみ、じゃ、ない!」


 うわぁ、試合前なのに魔力圧がすごい。

 モニターを見ると炎城さんの魔力ランクはBで、ランクDの凡人レベルの僕よりも二つ高い。そもそもランクが一つ違うだけでも強さが相当変わるのに、二つも違うのは相手にしなくないな!

 

 このまま降参して帰りたい。 

 ただ、その場合は晴人に任せっきりになるので少しくらいは働かないと。

 吐きそうな気持ちをなんとかとどめていると、審判台にたった五里先生がマイク片手にルールの説明を始めた。


『これより炎城由香VS黒羽裕太の試合を始める! ルールはどちらかが戦闘不能になるか降参するかの二つで決まり、致命的なダメージは結界が肩代わりするがその時点で負けになる』


 ほうほう、試合のルールは中途部と同じっぽいな。

 小さめの野球ドームくらいの広さがある第三訓練場のフィールド。ここを囲むように半透明のガラスみたいな結界がはられ、いよいよ戦いが始まる空気になる。


 うん、吐きたい。

 試合前の独特な空気感に気持ち悪くなっていると、対戦相手である炎城さんがニヤリと笑う。


「いまさら後悔でもしているのかしら」

「えっと、吐きたいから帰っていい?」

「なっ、この状況でふざけられるの」


 そうじゃなくて。

 炎城さんと僕の強さには大きく差があり、このまま戦っても結果が見えている。

 まあ、コレは言い訳で実際はマジで帰りたいから。


「ふざけてないし、僕は事実を言っているだけだよ」

「へえー、じゃあそのを叩き潰してあげるわ!」

「すでに叩き潰されてますよ」

『互いにやる気充分だな!』


 この状況で僕がやる気とかないから。

 ガチで吐きそうになっている時、五里先生が無理矢理そうに声を上げ、そのまま高々に叫んだ。


『では、試合開始!!』

「はあぁ! ちょっ!?」

「……え?」

「ぐうぅ!!」


 刀を構え突っ込んでくる相手。

 向こうは強力な強化魔法を使い身体能力をあげているが、その動きに対し僕は体の軸をずらして回避。

 ついでに足払いをすると、勢いのついた彼女はゴロゴロと転がっていく。


「アイツ何をしたんだ?」

「みた感じ次席の攻撃をかわしただけだよな」

「アタシもそう見えたわよ……」

「もしかしてアイツはランク詐欺をしているのか?」


 いえ、僕のランクは正真正銘のEです。

 今の一撃でも思ったけど戦闘能力は炎城さんの方が上で、体勢を立て直すまでが早い。

 

 マジで帰りたいし怖いな。

 二時間前くらいに食べた昼ごはんが口から出そうだし、彼女とやり合ってなんの意味があるんだろう?

 

「さっきは油断したけど次はそうは行かないわ!」

「えっと、さっきの時点で決着はついたような?」

「たまたまで勝った気になっているの?」

「そうではなくて……」


 全く話が通じてなくね?

 しかもさっき以上にキレているのか、刀を握る力が強くなっているような。

 

「それともさっきみたいなトリックをまた使う気?」

「はい? トリックも何もソッチが勝手に転んだだけだよね」

「なんですって!?」


 もしかして炎城さんは事実を言われるのが嫌いなタイプ?

 僕は真面目に言葉を返しているだけなのに、向こうはブチギレているので気分が悪い。


 うん、マジで帰ろう。

 そう思ったら吉なので気持ちを落ち着けるように息を吐き、自分なりのキリッとした表情を作る。


「この試合の勝負は決まったよ」

「なっ!? まだ終わってないわ!」

「え、ちょ!?」


 待って待って!?

 コッチがまだ話しているタイミングなのに……。 

 急に炎城さんが切り掛かってきたので、僕は冷や汗をダラッと流しながらその攻撃を避けていく。

 

 やばいやばい!?

 ビュンビュンと刀が自分の体を通り過ぎていく中、彼女は何かに気付いたのかバックステップをふむ。


「なんでわたしの攻撃が当たらないのよ!」

「さあ? てか、対戦相手である君に教えるわけないじゃん」

「ちっ、そこまでは馬鹿じゃないのね!」

「ええ……。馬鹿と言われると悲しいんだけど」


 ちなみに危機探知&勘&逃げの能力で避けてます。

 このネタバラシをすると対策を打たれるので、二十分後試合終了の間は少なくとも話さない。

 そう心の中に決めていると、向こうは炎の球体を複数作り出し刀の切先をコチラに向ける。

 

「その程度で悲しいならここ数日のわたしはどうなるの!!」

「僕は何も悪くないよ!!」

「このっ! 丸焼きになってくたばりなさい!!」

「それはお断りする!」


 魔力ランクBの炎玉とか当たりたくない。

 敵を探知するために使っている風魔法を今回は攻撃の先読みに使い、どこに火の玉が飛んで来るか予測してバックステップを踏み回避。

 

 ここまできたらもう無理だよな。

 おそらく相手が次に取る手段を考えると、コチラの使える手はあまりない。

 自分の中でまずい予測が浮かぶ中、炎城さんは予報通りの動きをする。


「ちっ、雑魚相手にここまで手こずるなんて……」

「あのー、そろそろ帰ってもいい?」

「ふざけるな!! てか、そんなに帰りたいなら病院送りにしてあげるわ!」

「あー、病院送りはいやですね」


 あ、これ、さらにまずくない?

 炎城さんの真っ赤な髪が揺れ、周りには強力な魔力の渦ができ始めた。試合の残り時間は十分ほどでタイムアップまでは遠い。

 

「この技でアンタを丸投げにしてあげる!」

「わぁー、それはこわいー」

「こ、この! どこまでふざけているのよ!」

「ふざけないとメンタルがやばいだけ」


 ここまできたらふざけるかとか大した問題じゃないよね。

 彼女がフルパワーで魔力を放出しそうになる中、僕はため息を吐きながらある手段に出る。


「コッチを使う羽目になるなんてね」


 回避が得意な僕でも範囲攻撃は無理。

 ただこのまま痛い目には会いたくないので、出来る限り炎城さんから距離を取るために反対方向にダッシュ。

 全力で離れるが、彼女のパワー重点が終わったのか全力でぶっ放し始めた。


「コレで終わりよ! 紅蓮の大爆発ルージュ・ボンバー!!」

「クソダサい名前だね!?」


 あ、でも、威力はやばい。

 彼女を中心に怒る大爆発を受けた僕は、そのまま高熱の炎に体が包まれるのだった。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る