第6話・戦うのが苦手と言っているのに試合をさせられる羽目になりました

 どうしてこうなった?

 葉隠学園の敷地内にある第三訓練場で訓練用の短剣を腰につけた僕は、刀を振り回しやる気満々な赤髪の女子生徒・炎城さんの前に立っていた。


「帰っていい?」

「ダメに決まっているでしょ!」

「ですよねー」


 今にもコチラを切り殺しそうな視線。

 素振りをやめた炎城さんは獰猛な笑みを浮かべながら、刀の切先を僕の方に向けてくる。


「まずは虎の威を借る狐のアンタを叩き潰す」

「あ、はい」

「なんでそんな余裕そうなの!!」

「いやだって事実を言われただけだからね」

「コイツ!」


 だって僕は雑魚だもん。

 訓練場のモニターに映る僕のステータスはEで、炎城さんのステータスはA−。この時点でだいぶ差があるし、そもそも勝ち目がない戦いだしやる気も出ない。

 な僕には嫌だけど、観客席に座る晴人が心配そうに頷いた。


「裕太、やばかったら速攻で変わるからな!」

「その時はよろしく頼むよ!」

「おう!」


 コレで保険は手に入ったが出来る限り避けたいな。

 僕は腕につけた銀鎖の腕輪を触れつつ、なぜこのような状況になったのか思い出し始める。


 --


 午前の授業が終わった放課後。

 僕と晴人は五里先生に呼び出されて生徒指導室に入ったのだが、そこには大量の反省文をヤケクソで処理している炎城さんがいた。

 というか、僕達が入室した瞬間に飛びつきそうなレベルの威圧感を飛ばしてきたのでぶっちゃけ怖い。


 すげぇ嫌な予感がする。

 危機感知の影響も含めてガクガクと震えそうになる中、晴人が前に立って五里先生に質問を始めた。


「えっと、どういう状況?」

「ちょっ!? わたしが反省文を書かされているのは見たらわかるでしょ!」

「いやそうじゃなくての確認をしているんだよ」

「うぐっ!? 無駄にイケメンフェイスなのが心にくるわ!」


 そりゃ晴人の顔はアイドルレベルだもん。

 中等部の時に東京へ修学料に行った時に、スカウトマンから声をかけられてたしな。

 ……隣にいた僕はオマケレベルだったけど。


 微妙に悲しくなるがさておき。

 比べる問題でもないので意識を戻していると、難しい顔をした五里先生が言葉を発する。


「神阪のイケメンフェイスはともかく、本題に入るぞれ

「「「はい」」」

「よし! まずは炎城の奇行に対しての罰則だけど被害者のお前らはどうしたい?」

「うーん、僕的にはですよね

「ほう?」


 いやだって無駄に恨みはもたれたくないもん。

 ここで調子に乗って彼女へ罰を出したら、どんな仕返しが待っているかわからない。今の状況で吐きそうになる中、ソファーに座っている炎城さんが悔しそうに拳を握った。


「主席ならともかく、底辺の雑魚が次席のわたしに情けをかけるんじゃないわよ!」

「そんなつもりはないんだけど?」

「ちっ! その何も考えない無能な瞳に見られるのは気持ち悪いわ!」

「僕はこの状況に吐きたいけどね」

「アンタはどこまでふざけているの!?」


 えっと、なんでそんなにキレているの。

 僕は素直に返答しているだけなのに……。炎城さんがヒステリックなのは知っているけど、ここまで短期だと話ができないな。

 ガンガンと拳で木の机を叩く彼女へ対して戸惑っていると、晴人がやらたとキラキラした笑みを浮かべる。


「ふざけているのは裕太じゃなくてお前の方じゃないか?」

「なっ、わたしのどこがふざけているのよ!」

「校則違反に殴り込み」

「……あ」


 シンプルイズベストの正論パンチ。

 さっきまで向こう優勢だった空気が一気に変わり、場の流れがコチラにむいた。そのおかげで少し余裕ができたので、僕は一息吐きながら空いているソファーに座る。


「それで炎城さんの要望は何かな?」

「あ、あんた、この状況で惚ける気なの?」

「いやだって僕は鈍感だし言葉にしないとわからない物はあるよね」

「アイツはアイツで容赦がないな……」

「まあ、それを無意識にやるのが裕太の面白いところ」


 普通の質問をしているだけなのに睨まれるのはなんで?

 ブルブルと体を震わせている話し相手を見て首を傾げてしまう。というか、こういう時は冷静な話し合いが大切だと思うけど、彼女が土台に乗ってこないのがきつい。

 

 うーん、このまま帰ってもいいかな?

 しれっとソファーに座ったはいい物のやることがないので立ちあがろうとした時、隣に晴人が座り笑顔を浮かべたまま棘のある発言をする。


「しっかし、あの有名な炎城家の令嬢さんがここまで情緒不安とは思わなかったな」

「だ、誰のせいでそうなっていると思うの!」

「「新聞部」」

「あああ!!」


 感情が爆発したのか机をバンッと叩いて立ち上がる炎城さん。


「目が笑ってないイケメンもそうだけど、その隣にいる雑魚が一番ムカつく!!」

「五里先生すみません。この場合はどのような罰則がありますか?」

「いやまあ、罰則はあるが今は自分の身を守った方がいいぞ」

「え、あ、はい」


 生徒指導室に吹き荒れる魔力の嵐。

 晴人には劣るけど彼女も豊富な魔力を持っており、並の僕には到底できないことをしている。

 

 うん、部屋の温度も上がってきたし窓をあけたいな。

 そう思っていると生徒指導室の窓ガラスがバリーンといい音で割れ、部屋の中にある資材が外に飛んでいく。


「お前は何をしているんだぁ!?」

「わたしは正当な理由でここにいるわ!」

「まあ、反省文を書くためだよね」

「コイツもう許さない!」


 えっと?

 闇属性のバリアに対して向こうは炎を纏った拳で殴ってくる。

 このカオスな状況に五里先生は地面を勢いよく叩き、僕達の視線を誘導させる。


「お前らのようなバカは思う存分やり合え!!」

「えっと、それはいったいドユコトですか?」

「決闘でもしろってことだ!!」


 ですよねー。

 ただ僕は戦うのが苦手なので晴人の出番とタカを括っていると、炎城さんはニヤッと笑う。


「五里先生の許可も出たしやり合うわよ雑魚」

「……え? いや、僕が君と戦う理由はないじゃん」

「ちょっ!? アンタがわたしに与えてきた屈辱を忘れたと言うの?」

「そもそも屈辱を与えた事ってあったかな?」

「こ、コイツ!」


 告白の件は新聞部でその前は晴人への煽り。

 少なくとも僕は関係ないのに、彼女の標的がコッチになっているのは解せない。

 ここは抗議した方がいいと声を上げようとした時、悠々自適にソファーに座っている晴人が目を細める。


「てか、お前は裕太にと思っているのか?」

「次席のわたしがランクEの雑魚に負けるとでも?」

「あー、ならそう思えばいい。ただお前がどうする?」

「万が一わたしがこの雑魚に勝てなかったら!」

「いったな」


 わあぁ、高度な煽りってすごいな。

 売り言葉で買い言葉の状態だが、なんか僕が戦うことになってない?

 気持ち悪くて吐きそうな状態の中、額に青筋を浮かべている五里先生が胸ポケットから先生用のスマホを取り出した。


「上には決闘の報告をしておくが問題ないな」

「ああ!」「ええ!」「ちょっ!?」

「よし!」


 なんで話がまとまった感じになっているの!?

 戦闘なんてやりたくないし、晴人がやり切ったみたいに肩を叩くのやめてほしい。

 ガチで吐きそうになるが、なんとか気持ちを抑えるために顔だけは上げるのだった。

 

 

 



 

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