第5話・なんでお嬢様本人がポンコツで取り巻きがマトモなんだ?
次席こと炎城さんが停学になった次の日・朝のホームルーム前。
葉隠学園の校内新聞で
……外から見ている分にはめっちゃ面白いな。
「まさかこんな面白い内容になっているとはな」
「確かに! ただこれ炎城さんに絡まれる理由にならないかな?」
「さあなー? まあでも、何かあったら叩き潰せばいいだろ」
「ほんと晴人は容赦がない」
「敵に容赦するのはバカじゃね?」
それはそうだけどもう少し穏便にやりたいな。
晴人のやり方は一番シンプルで楽だけど、後の始末を考えると得策ではない。というか、小心者なのに巻き込まれる僕……。
一年一組の教室内で嬉しそうに笑う晴人の後ろの席で頬をひきつらせていると、コチラをチラチラと見ているクラスメイト達の声が耳に届く。
「晴人様はやっぱりかっこいいわねー!」
「ほんと中等部から同じ人は羨ましいわ」
「てか、あの隣にいるモブ顔って晴人様の幼馴染なのよね」
「幼馴染の立場を変わってほしい」
撤回、女子生徒からの視線が特に痛い。
男子生徒の方もわりかし痛い視線が飛んでくるが、女子の方がかなり怖いしねっとりしている。
「ほんとアイツらは恐ろしいな」
「本当に恐ろしいと思うなら笑わないと思うよ」
「あ、悪い」
戦闘狂にポイントを振っているレベルで交戦的な晴人は、ニコニコしながら周りを一瞥。
その時に目があった女子生徒の数人は頬を染めており、イケメンパワーの羨ましさにため息が出そうになる。
「別に問題ないよ。それよりも炎城さんがブチギレてそうだね」
「あの精神面で恥をかかされたなら新聞部に突撃するかもな」
「あー……。なら僕達は悪くないか」
「そうそう! てか裕太は気にしすぎだろ」
僕の気にしすぎなところは問題だよな。
晴人の指摘に申し訳なくなりつつ、気持ちを落ち着かせるためにフウゥと深呼吸をする。
「これで『ドガン!!』……え?」
気持ちを切り替えた瞬間に大きな音を立てて開く教室のドア。
朝のホームルーム五分前の状況なのだが、今回は危機探知が反応しなかった。
「ごめん、読み違えた」
「別に問題はないぜ」
「ありがと」
危機探知の的中確率は七割くらい。
たまに発動して外れる時もあるし、今回みたいに何も反応せずイベントが起きる時もある。
……それはそうと、教室の前扉を開けた赤髪の女子生徒は見覚えがあるような?
「やっと見つけたわ!!」
「なあアイツって退学しているんじゃないのか?」
「さあ?」
血走った目でコチラを見てくる赤髪セミロングの女子生徒・炎城由香さん。
彼女の後ろには申し訳なさそうに頭を下げてくる取り巻き二人がおり、クラスメイト達は興味深そうに今のの状況を目にしている。
炎城さんドスドスと床を踏みつけてくるようにコチラに近づいてきた。
というか、教卓にたった彼女の赤い瞳には炎が宿っており、怒りを抑えているのか握った拳がプルプルしている。
「なんでわたしが
「それは知らないし、そもそもお前は退学しているんだよな?」
「ええ、三日の退学&反省文よ! でも今はソッチよりもアンタ達を対処する方が先!」
やべぇ、予想通りガチギレしてるな。
早く本鈴のチャイムがなって欲しいが、まだ鳴らないっぽいので炎城さんの八つ当たりへ言葉を返す。
「あの、すみません。新聞部が勝手に書いた内容はソッチに文句を言ってください」
「もしかしてアンタは煽っているの?」
「えっと、そんなつもりは……」
「主席の幼馴染かわからないけど雑魚の貴方に用はないわ!」
あ、はい。
戦闘力はクソ雑魚な僕は雑魚の一言で黙っていると、明らかに表情が変わった晴人が言い返した。
「あのさ、裕太は雑魚だけどオレには必要な相棒だぞ!」
「それフォローになってますか?」
「なっているから大丈夫だよ」
炎城さんの取り巻きからの生暖かい視線に胸が痛くなるが、事実なので苦笑いで頷く。
さらに面倒になってない?
そんな中、ついに堪忍袋の尾が切れたのか拳で教卓をバンっと殴った炎城さんは晴人へ指さす。
「このっ! ならわたしとケット『キンコーン・カンコーン!』っつ! なんでこのタイミングで!」
「ええっと、これはドユコトかしら?」
おおー、いいタイミングで一年一組の担任・
今の状況は退学しているはずの炎城さんがウチのクラスに凸ってきてヒステリックに叫んでいた。コレだけでもやばいのに、晴人が彼女を睨み返しているので教室内の空気が熱いのに冷え切っている状況。
目をぱちくりとさせて混乱している長谷川先生をよそに、晴人がニヤリと笑い改めて話し始める。
「とりあえずホームルームを始めましょう!」
「そ、そうね……」
「「「この状況で始めるの!?!?」」」
あー、ほんと晴人は
先生がきた状況で暴れるほどではないのか、炎城さんは悔しそうに拳を握った。
俯いた彼女の姿に取り巻きの二人は気の毒そうに視線を背けているが、状況を知らない長谷川先生が首を傾げる。
「えーと、別クラスの炎城さん達は生徒指導の
「ちょっ!?」
「「ほんとすみません」」
入学二日目から起きるトラブル。
中等部の時でも似た事は経験しているが、コチラの方が面倒なので頭が痛くなる。
というか、向こうが怒鳴るたびにビクッとして吐きたくなるのでやめてほしい。
「
「い、いえ! 自分達は炎城家から由香様の世話を依頼されているので大丈夫です」
「なるほど……」
「なんかわたしが問題児扱いされてない!?」
「いや、問題児その物だろ!!」
「「「うんうん!!」」」
「えええ!?」
え、今の状況で問題児と思ってなかったのか?
ホームルームの時間が押される中、廊下の方から現れた筋骨隆々の男性教師・五里先生が鋭い瞳で怒号を発した。
「また貴様か炎城!!」
「う、うるさい! アイツらが悪いのになんでこうなるのよ!」
「アイツらはともかく、武器を抜いて退学になった割にその相手に喧嘩を売るのは何事だ!!」
「「そうだそうだ!!」」
「ぐっ、調子にのって……」
やべぇ、ノリでやってしまった。
晴人と共にガヤみたいに煽っていると、炎城さんは涙目でキリッとコチラを睨んできた。ただ戦闘実技の先生並に強い五里先生の前では戦う気がないのか、彼女は唇を震わせながら連行されていく。
うん、コレで落ち着くかな?
「お騒がせして申し訳ありません」
「いえいえ! まあ、炎城さんにはもう少し落ち着いて欲しいわね」
「ウチもそう思うわ」
火消しに走る取り巻き二人。
彼女達は割とマトモなのか長谷川先生に謝罪した後、申し訳なさそうにコチラにも一礼してきた。
「神阪様、黒羽様、由香様のせいで振り回してしまい申し訳ありません」
「オレはそこまで気にしてないけど裕太に手を出してきたら潰すからな」
「は、はい! 由香様にも注意しておきます!」
晴人が入学式の時くらいの魔力放出をしたせいで威圧感がやばい。
さっき以上に冷たくなった教室内だが、本来のホームルームをするために長谷川先生がこの状況を治るのだった。
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