第2話 episode.1.1 星読み

…誰かが読み聞かせをしてくれた夢を見た。


ほんのりと懐かしいという感情。


でも、何もかもが分からない。


なにせ「記憶喪失」なのだから。


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最初に目が覚めたのは、小柄な女性の背中の上だった。彼女曰く、「貴方、雲の上から降ってきたんですよ!?」とのことだ。

うん、なるほど全くわからん。

まず空の上(?)から降ってきた正体不明の人間を躊躇なく助けちゃう彼女が凄い。

その上、湖に着水したらしい私の体にはタオルが巻かれていた。

そんな正義感の強い彼女は名をシャルサレード(シャル)というらしい。小柄で、青髪にピンクのインナーカラー、さくらんぼのような赤い瞳、丈の短いシスター服に白いタイツを履いている。そして彼女はラノブグラという宗教組織の幹部らしいのだがよく分からないので割愛。



それから私はオムライス専門店「リー」で働かせてもらっていた。オムライスとはトマトソースで味付けしたご飯を卵で包む料理らしい。

このお店はかなり繁盛しており、休日は1時間待ちもザラにある。


今日もまたシャルがお昼にお店に来てくれた。

また来てくれたのね、と話しかけてみると

「もう〜っ!貴方が心配なのよ!!特に最近は治安も悪くて…【魔女】が動いてるって聞くし…」


そう、【魔女】…

シャルからは絶対に近づかないこと!と念を押されてるけど、どんな姿かも分からないから避けようがないんだよな…とりあえず“危険なやつ”というのを現在の脳内評価しておこう。


カランカランッ…と入店を知らせる鐘の音が響き、一瞬で意識が現実に戻された。

いけんいけん、仕事中は集中しないと…


「いらっしゃいませ。何名さ、ま…」

その客は小さめのナイフを私の首元に当てていた。数は4名弱といったところか。

店外に何人いるかは不明だが、真っ昼間に黒のコートにペルソナ(仮面)を付けた団体なんて怪しいにも程がある。

今、夏だよ?今38℃だぞ?絶対暑いでしょ…


視界の端で、ちょっと!!と声を荒らげるシャルの姿が見えた。

『お前が“星読み”だな?』

ほしよみ…?いやいや!てかそもそも誰?!

それにやっぱり汗だくだくじゃん!私の身柄よりお水を要求した方がいいと思うなぁ…

『…一緒に来い』

まだシフト中です…!だなんて言う前に彼らのアジトらしき場所に一瞬でワープした。

これは…シャル特製2時間お説教コースだな…いや、これに限っては私悪くない!…はず。



「うわっ…」

誘拐犯のアジトに着いて第一声はこれだ。

何故か死ぬほど寒い上に眼前には実験用拘束具付きイスの特等席。イスの周囲に紫色の点滴が5つもあることには目を瞑った。

まぁ…ここまでくれば私の未来は予定調和のように進む。


簡単に言えば、ちゃんと拘束されて、ちゃんと紫色の点滴をさせられて、ちゃんと拷問を受けた。人肌の下ってあんな感じなんだ…自分の腸を見る機会って中々ないかもしれない。

あ、しいていえばなぜか実験実行員らしき人たちが慌ただしくしてたぐらいかな、イレギュラーは。


今困っていることと言えば暗闇に意識を拘束されていることだ。

全然現実に覚醒できない。覚めない夢…みたいな感覚。周りが暗闇だから特に出来ることもなくて行き詰まっちゃったんだよね…

どうしよう…なんか声?が聞こえるような気もするが、声量が小さすぎて聞こえない。

でもここは気長にお昼寝でもしようかな…昼かどうかも分からないけど


《少し遡り、彼女が攫われた直後のお店「リー」にて》

シャルside

あの服装…最近指名手配されている教団ね。確か神に昇華させる神秘薬?を開発したとかなんとかで。

彼ら【星読み】と言っていたけどまさかそんなことって…いえ、まずは

「今から彼らのアジトを襲撃する。店主、ここは任せてもいいかしら?」

あぁ、と店主の了解を得て彼らのアジトに真っ直ぐ進む。

はやり先に動いたわね…彼女の情報はどこから漏れたのだろうか。内部腐敗も視野に入れなくては…

彼らのアジトは街の郊外にあり、最速でも1日はかかるが、かなり急いでなんとか16時間ぐらいで着いた。…頑張った。明日は全身筋肉痛だろう。


そこで見たのは全身血まみれで倒れているアジトの構成員だ。

「えっ……」

もしかして第3勢力が彼女を狙った?

「と、とにかくアジトに入って彼女の安否を確認しないと」

…“我ら、ラノブグラを導く女神のために”


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少し走ると目の前で、シャルが助けた女の子が構成員の心臓を一突きし、また別の構成員の肺を袈裟斬りにしている姿が見えた。

周りに魔力波を纏って、正気を失った彼女が、いた。

原因はすぐに分かった。

「神秘薬…!」

彼らが開発した薬。ならば目の前にいるのは彼女と言うより、【神】?

「ねぇ!貴方!!私はシャルよ!助けに来たの!」

返事はない。

「聞いて!落ち着きなさい!!何があったか分からないけど、私が助け」

『自分の、ために?』

「…え?」

口を開いたかと思ったら彼女はそのまま意識を失った。

…まさか、ね

今のはただのうわ言だと思い込んだ。

まだバレてないはず、ボロは出してない。

初めて彼女と会った時と同じように、小さい背中によっこらせ、と背負って街まで戻った。


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【魔女】は正義を唄う。 Aria @Aria_

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