第9話 両極と決意


 今日は春風大学体育祭。

 

 青愛の学生である僕だが、スペシャルマッチにバスケで参加することになってる。

 

 青愛と春風は古くから名門同士で、言わばライバルのような関係だ。

 

 来月に控える青愛学園祭と合わせて『青春大学園祭』と呼ばれている。

 

 スポーツでも強いことを体育祭で、証明。

 

 学業成績や文化系の部活、クラスの団結力を学園祭で競い合う。

 

 それぞれその年に最も優秀なグループがそれぞれ代表として、各イベントに参加する。

 

 僕たちバスケサークルはスポーツにおいて優秀と評価されたようだ。

 

 

 

 僕はただただ、慣れない学園生活をなんとか過ごし、それなりにクラスメイトと話せるようになった、という段階だ。

 

 正直いって、想に勝てる気もしない訳だが。

 

 ーーーーーー。

 

 想と澄と離れた学園生活なんて小学生以来だ。

 

 いつのまにか、友達と呼びる人が少なくなっていたことに今更気がつく。

 

 あの頃はなにも怖くなかったのに、今はとても不安でいっぱいだ。

 

 「モテ男くん!来月の学園祭一緒に回ろうぜ!」

 

 気軽に肩を組まれて少し怪訝な表情を向ける。

 

 振り返ると、茶髪でショート、男勝りなクラスメイトに絡まれる。

 

 「怖い顔すんなよ〜俺とお前の仲だろ?」

 

 「嫌なわけじゃない。……ただ、胸当たってるから」

 

 「んあ!わ、わりぃ。そ、それはすまんな。」

 

 「……少しは自分が女だってこと自覚してよ。」

 

 「ごめんて!男ばっかで育ってよ!シュウはそういう反応してくれるから助かる!」

 

 変わらず腕を握って離さない彼女に呆れていると、不意に腕から彼女は離れる。

 

 「離しなさい、ドラ猫。」

 

 「お、おいてめえ!」

 

 「汚いお言葉。……修司くんと学園祭を回るのはワタクシですわ」

 

 「んあ!てめえこないだシュウに振られてたろ!高飛車女!」

 

 「あらあら。そういうこと言うのね。告白する勇気もないドラ猫は黙ってなさい。こないだ遠回しに振られた〜って泣いてて。ワタクシに慰められたのは誰でしたっけ?」

 

 「ぬあっ!?なななななな、何馬鹿なこと言ってんだ!」

 

 現れた同じく同級生の女性に腕をかじっと掴まれる。

 

 「あの、離してもらえる?」

 

 「嫌ですわ!」

 「ダメだ!」

 

 困ったようにお願いしてみるが、二人の綱引きは終わることは無い。

 

 「ていやあ!」

 

 刹那、可愛らしい声が響き渡りすんなりふたりが離れる。

 

 だが、再びくっつかれてまた身動きが取れない。

 

 「僕と一緒に回る約束してたからさ……ごめんね?ふたりとも。ね?そうだよね、修司。」

 

 小柄でまるで見た目は美少女の……男の子に後ろから抱きつかれる。

 

 男の体とは思えない柔らかい体つきに少しばかりドキッとする。

 

 ……だが、男だ。

 

 ーーーーーー。

 

 金髪でお人形のようなお嬢様。

 

 スポーティでスタイルの良いクラスメイト。

 

 まるで美少女のように可愛い男の子。

 

 それぞれ腕、背中と捕まれ身動きが取れない。

 

 「くたばれ天然タラシ」

 

 「誰か一人ぐらい分けろ」

 

 「スケコマシ野郎」

 

 「何人惚れさせれば気が済むんだ。」

 

 通りすがりに男子たちから罵声を浴びる。

 

 僕が何をしたというのだろう。お腹が痛い。

 

 しかしながら、同学年でもトップクラスに人気な彼女たちに好かれては、この視線も仕方ないと言える。

 

 だからこそ、しっかりと全員振っている。

 

 今も昔も、僕が好きなのは澄だけだ。

 

 だけれど、三人は諦めてくれない。

 

 「3人とも気持ちは嬉しいけど、学園祭は他校から友達が来るんだ。……だから回れないんだ。ごめんね。」

 

 「そんなもので、ワタクシが食い下がるとでも?他の予定を入れますわ!」

 

 「全部の時間回る訳にも行かねーだろ?クラスの出し物もあるしさ。そんときはオレと回ろーぜ?」

 

 「学園祭は無理でも、一緒に買い出し行ったり色んな時間過ごせるね!」

 

 「え、あ、うん。そうだね。考えておくよ……。」

 

 別に悪い気はしない。だが、そういうつもりがないと、アピールしているつもりだ。

 

 それでも、彼女たちはやめる気配がない。

 

 単純に友達になれれば、どれほど学校が楽しいだろうか。

 

 だが、それは失礼な想いなのだろう。だからこそ、飲み込むしかない想いが沢山ある。

 

 「相変わらずモテモテだね。シュウちゃん。助けようか?」

 

 「……メイ。」

 

 目の前に現れたのは想の妹。メイは有志で来月の学園際に参加する予定だ。

 

 今日は打ち合わせか準備に来たということだろうか。

 

 彼女が現れて少しホッとする。

 

 メイはほか3人と明らかに違うからだ。

 

 「3人とも、悪いことは言わない。シュウちゃんは『真島澄』以外興味無いの。諦めなよ。」

 

 「知ってるよ、少なくとも半年同じ学校にいるんだ。お前にとやかく言われる筋合いはねえ。」

 

 「癪ですが、ワタクシも同感ですわ。修司くんを落とすなら、必ず立ち向かわなければなりません。……それにあなたには言われたくありませんことよ。」

 

 「僕も諦めるつもりは無いよ。悪いけど、君は僕たちとは違うからね。」

 

 『たとえ叶わない想いだとしても、好きな気持ちは変わらないから』

 

 奇跡だろうか。

 

 三人は声を合わせてそう言った。

 

 僕とメイには眩しすぎる言葉だった。

 

 ーーーーーー。

 

 「……私は彼女たちと仲良くなれると思って忠告したんだけどね。」

 

 「酷く嫌われてたね。」

 

 「優しいね。シュウちゃん。私の気持ち知ってるのに。」

 

 「……想なんでしょ。」

 

 「うん。彼女たちに嫌われたのは、私がシュウちゃんに本気じゃないから。かっこいいと思ったよ。……なにより、突き刺さった。」

 

 「僕も……。」

 

 続く言葉は無数に思い浮かんだ。

 

 だが、口に出すのは違うと思った。

 

 それをしなかったのは僕だから。

 

 「……あんなに可愛い子達落として、振り回して。それで満足なの?」

 

 「好きでこんなことになった訳じゃ……」

 

 「言い訳だよ、それ。澄を振ったのは間違いだったね。」

 

 「……っ。」

 

 「少なくとも、私はそれを許せない。そのあとのシュウちゃんの行動も含めて全てね。……警告、したからね。」

 

 屋上。吹き抜ける風が冷たくて、凍える。

 

 冷たいメイの眼差し。

 

 僕の全身が冷えきっていくのをゆっくりと実感した。

 

 ーーーーー。

 

 矛盾。

 

 その言葉に尽きる。

 

 僕は澄と付き合うべきだったのかもしれない。

 

 本当に好きだと周りを傷つけるぐらいなら。

 

 たとえ不安があったって、一緒に見つけていくことが出来たのかもしれない。

 

 リアルがどうでも、本当の澄は僕に『好きだ』と発言したんだ。

 

 3人の関係を壊したくなかった。

 

 想と付き合った今崩れたか?

 

 友人の好きな人をすきになってしまった。

 

 本当に好きなら正々堂々戦うべきだったのではないか?

 

 澄は本当の僕を見ていない。

 

 当たり前だ。僕だって澄を知らない。

 

 表面だけ見ていたのは僕じゃないのか?

 

 彼女のことを知ろうとしなかったのは僕じゃないのか?

 

 駆け出しそうな気持ち。

 

 僕はようやく前に進める。

 

 だが。

 

 ーーーーーー。

 

 「僕は澄のことが好きだ。付き合って欲しい。」

 

 「はい、喜んで。」

 

 そんな未来あってたまるか。

 

 三人の言葉、メイの言葉。

 

 それによって僕の後悔と想いは加速した。

 

 それ故に過去の記憶も蘇った。

 

 過去の想いも。

 

 澄と付き合う?

 

 思い続ける?

 

 ばかなのか、僕は。

 

 それが出来ないと苦渋の上で今を生きているんだ。

 

 

 

 そんなの、理想だ。

 

 幻想だ。

 

 妄想だ。

 

 有り得たかもしれない世界なんて存在しない。

 

 もう一度、よく考え直せ。

 

 僕がなぜ澄を振ったのかを。

 

 ーーーーーー。

 

 「好きです。付き合ってください!」

 

 軽い言葉が嫌いだった。

 

 全く話したこともないヒトに何度も告白された。

 

 何度も何度も何度も。

 

 何も知らないだろう。僕だって君のことを知らないんだから。

 

 馬鹿みたいに泣かれて。

 

 罪悪感で死にそうになる。

 

 「そうやって女の子誑かすのやめなよ!!!」

 

 時には理不尽にビンタされて。

 

 本気でビンタされたの何度目だろう。

 

 誑かしてなどいない。みんなで楽しく過ごそうと小学校の時と同じように頑張っただけだ。

 

 中学校になってからどうも、この辺が上手くいかない。

 

 男子は勉強やスポーツをサボりがちで、女子は色恋沙汰ばかり。

 

 僕のことをイケメンとひとことで片付けて関わりを避けられる。

 

 見た目しか見られていない。

 

 不愉快だ。

 

 話しかけただけで湧くのやめろ。

 

 僕は普通の話がしたいだけなんだ。

 

 中庭で草と戯れながら空を見上げる。

 

 「せっかくの学ラン汚れちゃうよ?」

 

 見上げると前髪パッツンな女の子が顔を覗かせる。

 

 セーラー服の白が弾けて新鮮だ。

 

 小学校から付き合いのある『真島澄』。

 

 僕に普通に接してくれる女の子は彼女だけだ。

 

 同じ中学、同じクラス。

 

 不思議な縁もあるものだ。

 

 気がつければ、この子と想の三人で遊ぶようになっていた。

 

 本気の想い。

 

 想はこの子が好きなのだろう。

 

 見ていてよく分かる。

 

 ついつい、居心地が良くて3人の関係に慣れてしまって少しづつ罪悪感がある。

 

 だれけど、二人がうやらましい。

 

 偽物にまみれた僕は、君たちのようになりたい。

 

 何にも染まっていない君のような、純粋な子で世界が埋め尽くされればいいのに。

 

 「まーた振ったの。誰かと付き合っちゃえばいいのに。」

 

 「失礼だよ、それは。」

 

 「だれか、気になる子はいないの?」

 

 「女の子は澄としか遊んでないからね。」

 

 「じゃあ、わたしが有力候補なわけだ?」

 

 「はは、そうなるね。」

 

 ーーーーーー。

 

 なんの気ない他愛ないの話。

 

 だけど、この日を境に澄はいじめを受けるようになる。

 

 「お前よくあんなぶすと仲良くできんな?身だしなみ整えらんねえ女とか女じゃねーじゃん」

 

 「け!毛がはえてたぞ!男なんじゃねえの?」

 

 「おい!お前ら!みんながみんなそういうことが得意なわけじゃないだろう!?それに女の子だって毛が生えるんだ、同じ人間だろ!」

 

 「へえ〜。やっぱり庇うんだ」

 

 「な、なんだよ?」

 

 「なら、わたしとも仲良くしてよ?同じく人間なんだからさ。」

 

 「くっ……。」

 

 次第に強くなっていたイジメをボクが仲裁した。

 

 僕はいじめの中心となっていた女にいいように扱われるようになって行った。

 

 次第に言葉の自信を無くし、どんどんつよく言葉をいえなくなっていった。

 

 だが、せめてもの抵抗で、澄といる時間を長くして行った。

 

 だが。

 

 ーーーーーー。

 

 「澄が戻らないんだ!なにか知らないか!」

 

 強く肩を握られた。

 

 頭が真っ白になった。

 

 記録的な豪雨。

 

 僕は澄を守れなかったと痛感した。

 

 大切な本物を僕は失ってしまったんだ。

 

 ーーーーー。

 

 事件から数日。

 

 澄は見違えるほど美人になって帰ってきた。

 

 「久しぶり。修司。一緒に学校行きましょう。」

 

 直ぐに僕は違和感に気がついた。

 

 見た目ももちろんそうだが、僕に対して偉く他人行儀だった。

 

 こころが酷く傷ついた。

 

 傷ついたのは澄だ。

 

 そんなことは分かっているが、ボクは澄を守れなかったと痛感したからだ。

 

 そして、溢れる後悔と無力感。

 

 僕は、澄のことが好きだったんだとそこで初めて実感した。

 

 『あの頃の澄』。

 

 明るくて、親しみやすい。

 

 僕にとって太陽な。

 

 何よりも大切な本物。

 

 ボクは澄のことを守りたかったんだ。

 

 僕なら守れると思っていたんだ。

 

 だから、隣にいることはできない。

 

 僕がこの手で、彼女を壊してしまったから。

 ーーーーーー。

 

 目の前に最大最強のライバルがいる。

 

 きっと修司にはどれだけ経っても追いつけないんだろう。

 

 「やっぱりいるよな、お前は。」

 

 「そりゃあね、バスケ好きだし」

 

 春風大学。体育祭。

 

 スペシャルマッチ。

 

 対戦相手は青愛学園。

 

 いや、俺の場合は『光野修司』。

 

 今この瞬間、この場に至っては、俺の敵はお前だけだ。

 

 「修司、賭けをしよう」

 

 「面白いね、いいよ。」

 

 俺はこの日をずっと待っていた。

 

 俺じゃ、『カノジョ』の隣には居れない。

 

 やっぱりお前なんだ。

 

 つい2週間前実感した。

 

 「俺が勝ったら……」

 

 澄を寄越せ。

 

 その言葉が言える強さがあれば、今この場に俺はいないんだろう。

 

 ……それにそんなことは澄が決めることだ。

 

 叶わないことだって俺がいちばん分かってる。

 

 こんなヘタレでたらしこむ野郎をあいつは好きなんだ。

 

 ずっと前からそばにいた。

 

 そばにいる時間なら俺の方が長いのに。

 

 だから、俺はどうしようもない親友の背中を押してやろうと思う。

 

 『三人の友達として』。

 

 「俺の言うことなんでも聞けよ?」

 

 「いいよ!なら、僕が勝ったら……」

 

 「へっ、それは勝ってから聞くよ。」

 

 「えぇ…ズルくない?」

 

 「ズルかねーよ」

 

 勝つのは俺だ。

 

 今の修司に俺は負けない。

 

 審判のホイッスルと共にボールがたかく飛び上がる。

 

 「絶対に……勝つ!!!」

 

 俺は強い気迫とともにボールをチームメイトへと投げ飛ばす。

 

 ジャンブを制したのは俺だ。

 

 「くっ……!」

 

 出鼻をくじかれて悔しそうな表情の修司。

 

 オレは構わず、前に出てパスを貰う。

 

 「まずは先制!!!」

 

 三人のディフェンスを回転しながら華麗に避ける。

 

 高い手には低くすばしっこく。

 

 不意をつく手にはフェイントを。

 

 しつこいブロックは下がって回転。

 

 ゴールは目の前。

 

 これは決まったな。

 

 簡単に先制ポイントを取り、修司目線を送る。

 

 賭けは覚えているか?というアイコンタクトだ。

 

 しかし。

 

 「……ん?」

 

 修司が見当たらない。

 

 どこだ?

 

 くまなく探すが、見当たらない。

 

 刹那、冷や汗と共にホイッスルがなる。

 

 「……なっ!?」

 

 振り返るとゴールにシュートを決められている。

 

 それもスリーポイント。

 

 「……真っ向から選抜の選手に勝てるとは思ってないよ。気抜いたね。」

 

 涼しい顔で言ってみせる修司。

 

 気を抜いた隙にリバウンドを取り、パス回し。

 

 勢いのまま、修司が決めたわけだ。

 

 やってくれる。

 

 ここまで俺を読むのは修司だけだ。

 

 そしてチーム自体も青愛を舐めていた結果だろう。

 

 「…クックック、やってくれたな、修司。……おめーら!!!気合い入れ直すっぞ!!!」

 

 「おっす!!!!」

 

 俺は声をはりあげてチームメイトの指揮をあげる。

 

 どうやら、徹底的にやらなければ、満足しないらしい。

 

 今の一撃は効いた。

 

 ここからは本気だ。

 

 ーーーーーーー。

 

 試合終了のホイッスルが鳴り響き、気がついた時には頭を下げていた。

 

 結果は22対35。

 

 俺たちの勝利だ。

 

 正直点数だけ見れば、圧勝だが、気が抜けない戦いだった。

 

 舐めていたことを後悔させられる。

 

 気を抜けば、一瞬で点数を怒涛に入れられ、こちらも点数を入れなければいつでも巻き返されるそういう展開だった。

 

 久しぶりに滾るのを感じた。

 

 俺は、途中から本機で楽しんでいたらしい。

 

 やはり、修司、お前は本当に飽きないやつだ。

 

 追い越しても追い越しても、抜いた気がしない。

 

 まだ試合に納得してはいないが、勝ちは勝ちだ。

 

 少しぐらい俺の願いも叶えて貰おうじゃないか。

 

 ーーーーーー。

 

 「はは、やっぱり強いなあ」

 

 オレは修司に手を貸す。

 

 修司は笑顔で立ち上がる。

 

 「それで、ボクは何をしたらいいのかな?」

 

 

 

 

 「澄と、二人でデートしろ」

 

 

 

 

 「え?」

 

 試合後の閑散とした体育館。

 

 修司の小さい疑問符だけがこだましていた。

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