第3回

メガネをかけ直した花田先輩は、ニコリと微笑んで、

「ストーカーは、南野さんの狂言ですね」

「えっ!」

私は、びっくりした。

山田さんも同様の反応だ。

「ーーどうして、百合亜がそんなこと?」

と、山田さんが先に口を開いた。

「最近、南野さんの部屋に入った時、何か変わったことがなかったですか?」

「それはさっきも言ったようにーーそう言えば、百合亜の机の上、落語のCDが散乱してた。百合亜、落語は嫌いだと言ってたんだけど」

「それが答えですね、あなたに対する」

花田先輩の言葉に、私は、首をひねった。

「ーーそうか、俺に対するお礼だったんですね!」

山田は、苦笑すると、「そんなこといいのに。俺はただ、約束を果たしてるだけなのに」

「そうなんですか?」

と、私が言うと、花田先輩が手で制し、

「これからも、しっかりと約束を守ってあげてください、南野さんのお母様から託された、大切な宝物なんですから」

山田は、最後に、

「あのCD、全部持ってるんだよな……」

と、ぶつぶつ言いながら出て行った。

「どうして、たかだかCDを渡すために、ストーカー話をでっち上げるです?」

と、私が言うと、

「CDは、渡すためではなく、百合亜さんが自分で聞いたんです」

と、花田先輩が微笑む。

「でも今山田さん、百合亜さんは落語が嫌いだって」

 私は、ハッとして、「--そうか、そういうことか」

「百合亜さんは、自分がストーカーに被害にあってるといえば」

「山田さんが、どういう行動をとるのか承知してたんですね」

「はい」

 花田先輩が肯き、「机の上においておけば、すぐ分かるだろうと思ったんでしょう」

「でも、あの人ーー勘違いしてますよね」

「まあ、いいんじゃないですか。そのうち気が付きますよ」

 と、花田先輩が笑いながら言った。

  私は、あの男は永遠に気づかない方に賭けますけど、さて、何を賭けます、先輩……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

託された恋人 北斗光太郎 @11hokuto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ