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イタチ
第1話
私はその日、おじいちゃんの葬式に来ていた
遠い地方なので、夏休みでもめったに来ることはなかった
しかし、さすがに、自分の親が死んだのだ、両親二人して、休みを取って
電車で片道、六時間以上かけて、私は、南のほうへ、南のほうへと、降りていた
電車を乗り換えるたびに、気温は上昇し、私は、徐々に不安になっていく
母親の話では、その田舎では、未だに、クーラーが、無いというのである
一両編成の電車で、駅に着くと、一台だけ、タクシーが止められており
すぐに、三人でその車に向かった、先に電話で、お願いしており、こんな場所に、普段タクシーはないという
私は、全く、コンクリートの建物のない揺れる道の中
昔、両親が一度、仕事で手が離せないとかで、田舎に預けられたことを思い出していた
そこで、釣りに連れていかれたり、山の田んぼに行ったそうであろうが、全く記憶にない
それでも、私の感情の中に、一つ、ある言葉が浮かんでいた
それは、何の岩だったかは、思い出せない
しかし、何でも、その岩で、命を落とすと、生き返るというのだ
今、子供ながらに考えて、そんなことは、無いと、そう思う
しかし、やけに、その言葉が、頭の中に、しみついてしまっていたようで
家に近づくにつれて
ばらけていた、記憶が、徐々にまとまり、次第に、あの思い出も、あわただしい、出迎えや、用意などで、押し流されていった
無事葬式は、終わったが、そのうちの一人が、言う
「しかし、棺桶のふたも開けられないなんて、よっぽど、酷い死に方をしたんだろう」
私はその言葉を聞いて、母親の顔を見ようとしたが、皆移動する流れの中で、私も、それに付き合うしかなかった
火葬も終わり、両親は、有休をとったとかで、あと二日、母親の実家に滞在することになった
本当に何もない場所であるが、クーラーは、何年も前に設置したとかで、一部の部屋だけが冷たかった
「本当に、突然だったね、あんな元気な人だったのに」
母親が、その母親とせんべいを食べながらお勝手で何かをしゃべっていた
私は、持ってきた本を読みながら、なんとなく聞いていた
「あのね、実は、みんなが、いたから、あまり詳しいことは言わなかったけど
お父さん、死んだ場所が、あがばがだったんよ、それで、あまり周りにも、言えないし、本当に、困ったんけど、潮の流れで、向こうの沖について、漁港で、回収したけど、今夜あたり、出るかも知れんね」
私は、何か、不謹慎な気がした
向こうのほうで、父親の声がした
「おい、ちょっと、海岸に散歩に行かないか」
父親に言われ、私は靴を履いて玄関から出ようとすると、母親も、一緒に行くとついてきた
時刻は、夕方を、超えようとしている
もう、日は、地平線へと隠れてもおかしくなさそうであった
「本当に、残念なことをしたよ、あんなに」
父親は、そういうが、母親のほうは、首を振るばかりで、何も言わない
母親たちが、歩いていく
しかし、私には、やけに、見覚えのある場所に思えた
「あれ、何だっけ」
ただ、それは、昔、遠い記憶の中で、そこに、歩いていた記憶がある
おじいちゃんと、そうだ、私は、ここに来ていた
その時、何と言ったっけ、おじいちゃんは
「いったらいけんど」
そんなことを言われた気がする
確か、岩が、鋭くて、火山岩だから、けがをしやすいし
落ちやすいと
私は、前を見て、声を出そうとして、気が付く
目の前に、誰もいないのだ
「お父さん」
私は、声をかけたが、そこには誰もいなかった
丘のような、薄い草が、一面に生えている
その先には、切れ立った崖しかない
「何処に行ったんだよ、おかあさん」
何度か叫んだところで、私は、背後の声を聴いて振り返った
そこには、両親の姿があった
ちょっと、戻っていたというのだ
私は、それにあんどして、抱きついて、首を傾げた
びっしょりと濡れていたのである
tt イタチ @zzed9
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